春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!
イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「マスク」。

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 地方の独演会の1席目のマクラで「風邪予防にはマスクが第一。寝るときもマスクしたほうがいいみたいですね」なんてなことを言ったら、最前列のお婆さんが「ほうかね」とガーゼのマスクを顔に装着し、しばらくしたらコックリコックリし始めた。おーい、婆ちゃん、「寝る」というのは自分の家で寝ることを言ってんだよ……。でもガーゼのマスク、久々に見たなあ。

 ……というような実際にあった出来事を、寄席でマクラとして話したり、原稿にしたりして私は日々生きている。いや、べつに寄席では寝たってよいのですよ。他人に迷惑かけない範囲で自由にしてちょうだい。ただ不特定多数の人が一斉に大口を開けて笑う寄席の客席では風邪罹患の確率は高そうだ。マスクはしといたほうがいい。

 栃木の某中学校の体育館で落語をやったとき、生徒700名全員が白いマスクをしていたことがある。先生も全員マスク。高座に上がって軽い衝撃。その空間で「まるごし」なのは私だけだ。なんだよ、それ? オレにもくれよ、マスク。笑い声が真っ直ぐ届かず、マスク越しに「バァフバァフバァフバァフ」。

 こわ。「一刻も早くここを出なければ!」と高速で一席を終えると、生徒代表の御礼の言葉。ステージ上で生徒会長と対峙。おい、ニキビヅラ。マスクしたまま挨拶できるのか? 案の定、担当の先生から「マスク外せ!」との指示。その先生もマスクをしてるんだけれどね。会長は無言で頷くと、一応マスクを外して「今日はお忙しいところありがとうございました! インフルエンザが流行ってますので一之輔さんもお身体に気をつけてこれからも頑張ってください! 生徒代表◯◯!」とかなりな早口で挨拶を終えたとたん、サッとマスクを再装着し、早足で生徒の輪の中へ戻っていった。「おい!大丈夫だった!?」「うん、とりあえず! ちょっと怖かったけど!」みたいな会話をしてるように見えたぞ。アイツら……(被害妄想)。「はーい! 芸術鑑賞会は終了でーす! 教室に入る前に全員今一度手洗いうがいをするように!」と先生がマスク越しにマイクで怒鳴ってる。……なんか凄く感じ悪いぞ。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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