ここから各地にスイミングクラブが誕生していきます。私は小1のときに東京スイミングセンターで水泳を習い始めました。後になって北島康介も同じプールで5歳から水泳の指導を受けて、五輪金メダリストへの道を歩んでいきます。

 市川崑監督のドキュメンタリー映画「東京オリンピック」(65年)は、太陽のアップに続いて鉄球がビルを壊す場面が映し出されます。五輪をきっかけに東京をつくり直す、という象徴的な映像だと思います。

 スイミングクラブの普及だけでなく、国民の体力向上や子どもの発育発達を促す機運が、前回の東京五輪の前後に盛り上がっていきました。都会の公園で遊ぶ子どもたちもたくさんいましたし、体育の授業で「順番をつけない」などということもありませんでした。

 昨年12月、全国体力テストの結果が発表され、「小5男子の体力、過去最低」というニュースが流れました。スマートフォンの普及などで運動時間が減ったことが背景にあるといいます。小中学校のプールも老朽化に伴って取り壊されるところが増えています。

 今度の東京五輪は何をもたらすでしょうか。スポーツを楽しむ環境整備が進み、だれもが健康でいきいきとした暮らしができるようになる。水泳の普及活動がそんな未来につながっていくことを願っています。

(構成/本誌・堀井正明)

週刊朝日  2020年2月28日号

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平井伯昌

平井伯昌

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数

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