佐藤:長く、一生懸命生きてくれば、必ずものごとは落ち着くものだと昔いわれたことがあるけれど、ほんとにそうだと思いますね。だから、早トチリして絶望してはいけないのよね。

三田:私、10年くらい前にいろいろなことが続いたときに、お墓参りに行ったんです。うちのお墓は曹洞宗のお寺にあるので、そこでいただいた冊子を読んでいたら、曹洞宗の開祖・道元禅師の和歌がありました。「春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて 冷(すず)しかりけり」。私はこの歌に非常に感銘を受けて。四季の移り変わりをそのまま受け入れ平らに生きる。これが人間の生きざまだなあ。抗わずに平らな心境で生きていくことだなと10年前にふと思ったのですが、いまあの歌の意味がしみじみと味わえます。

佐藤:やっぱり苦しいと人間は考えますからね。

三田:そうですね。

佐藤:苦しいことがないと考えないから。適当な苦しいことがあったほうがいいのかも。

三田:おっしゃる通りです。逡巡して、いままさに辿り着いたという心境です。

(構成・赤根千鶴子)

週刊朝日  2020年2月28日号より抜粋