三田:私だって、もともとはそんなに強くないですよ。

佐藤:じゃあ、強くなったってことですね。辛酸のおかげで?

三田:なったんです。純朴な世間知らずの少女が女優になって、60年かけて。

佐藤:そういうものですよ、強さっていうのは。

三田:でも本当に子育ては何かマニュアルがあるわけではありませんし、親子関係もパターンでくくれるようなものではないですからね。その状況、その状況で自分で考えていくしかない。だからこそ、子どものことで悩む親は多いのだと思います。

佐藤:みんながみんなで知識が過剰なこと。そうすると、人間は衰弱するんです。子どもに欲求不満があるのは当たり前じゃないですか。だから暴れたり、いたずらしたりするわけでしょ。それをいまは暴れたり、いたずらするのはなぜかということを考えて、いたずらしないようにその原因と思えるものを排除しようとする。それが家庭教育だと思っている親が多いんじゃないですか? でも「ああするべきだ」「これは何を意味する」だなんて、そんなこと考えたってしようがないんですよ。

三田:この頃、私はやっと“笑い飛ばす”ということができるようになりました。何か笑えるようになったときというのは、現状を打破していくとか、脱却していくときの原動力になります。

佐藤:なんでも避けて通るのではなく、やけどするときはしたほうがいいときだってあるんです。

三田:そうすると熱いことも痛いことも治るのにどのくらい時間がかかるのかということもわかってきますものね。うちは本当に長い時間がかかりましたが、最近彼が「親の苦労がわかってきたよ」と言ってくれるようになりました。だいぶ精神的に平らになり、新しい仕事のことにも気持ちが向かう余裕が出てきたようです。近頃は一日の報告をしてくるんですよ、電話で。

佐藤:それは嬉しいですね、でもいろいろ気になるでしょう?

三田:気にはなりますけれど、彼の人生です。私は応援はしますけれど、その中に入っていくわけではありませんから。彼が「今日、こういうことをやったよ」と報告してきたら、「それはよかったじゃない」「それはあなたにとってプラスね」と会話を交わすだけです。でも、それだけでも、きっと支えにはなっているのではないかしら? 卒母はしましたけれど、親と子はいつまでも親子です。どんな子どもであっても、親が子どもを見捨ててはいけないと思います。せめて「心」だけは支えてあげたい、と。

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