立憲民主党の枝野幸男代表は、黒川氏の定年延長について、「首相を逮捕するかもしれない検察まで、安倍官邸が恣意的に動かすことは許されない」と怒っている。

 それにしても、「桜を見る会」問題で国会が紛糾し、とんでもない出来事に国民の多くが安倍首相の責任は重大だと怒っているさなかに、なぜわざわざ国民の神経を逆なでするようなことをやってのけるのか。

 あるいは、黒川氏を検事総長にしないと安倍首相が大いに困ること、たとえば安倍首相失脚なんて事態が生じる、と恐れているのだろうか。

 現に、少なからぬメディアがそのような書き方をしている。

 私は、実はそのような事態は生じないと捉えている。

 率直に言えば、現在の検察にそれほどの度胸はないと私は見ている。安倍首相自身、そうした恐れは抱いておらず、自分がとても気に入っている黒川氏を、何とかして検事総長にしてやりたいと思っているのではないか。

 だが、安倍首相がそういう気持ちを抱くと、自民党の幹部や官僚たちが、その良し悪しは考えず、誰もがそれを実現させようと忖度してしまう。それこそが自民党の大問題なのだ。だから、森友・加計問題が生じ、「桜を見る会」がこれほどの事態になってしまったのである。安倍首相はそのことがわかっているのだろうか。

週刊朝日  2020年2月28日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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