農業を活用した新しい障害者雇用として注目され始めている「わーくはぴねす農園」だが、事業開始時から200件ほど営業に回ったというエスプールプラスの和田一紀社長(44)は「障害者と農業は親和性があるということを頼りに始めた事業で、試行錯誤の連続でした」と振り返る。

「初めは収益を出すモデルを検討しましたが、農業はそんなに甘いものではなかった。『障害者を食い物にする新しいビジネス』という見方をされて、だれも信用してくれなかった」

 市原市に最初の農場ができたが、参画企業はなかなか増えない。成果の出ない営業活動を続ける中、IT企業の人事部長と話をしていたとき、「福利厚生で作った野菜を社員に配るなら稟議(りんぎ)が通るかもしれない」と言われ、「これだ!」と思ったという。

「しかし、うちのグループ企業も含めて社内でだれ一人賛成する人がいなかったので、福利厚生モデルを浸透させるのに大変苦労しました。知的障害者の方でも安心して働ける仕組みの構築にも苦心しました。12年暮れに大手企業1社が参画して、そこから徐々に広がりが出てきました」

 障害者の保護者の意見を取り入れて、清潔で汚れない軽石を使った栽培方法を採用。管理者も「孫と接しているようでやりがいがある」という60歳以上のシニア中心にするなど、モデルを確立していった。

「人事担当の方が定期的に訪れやすいように、会社から1時間程度で来ることができる場所に農場を作っています。どの企業も生産物を介して、農場とのキャッチボールができている。障害者が作った野菜を社員が家に持ち帰ると、『お父さんはいい会社で働いている』とよろこばれるそうです。これが大事なんです。『人を大切にする会社』という評価はプライスレスな価値があるはずです」

 事業を始めたころに比べて、「障害者をなんとか雇用したい」という企業は大幅に増えているという。

「東日本大震災をきっかけに障害者雇用に対する企業の姿勢がいい方向に変わってきたように思います。農業を使った雇用の仕組みがあることを、障害者の方に広く知ってもらいたい」

(本誌・堀井正明)

週刊朝日  2020年2月21日号