この話を帰って、夜、美輪明宏さんに自慢の電話をしたら、「アラ、私だってできるわよ。ヨコオちゃんがやっても不思議じゃないわよ」と、雲切り名人というのがいるという話をしてくれた。想念エネルギーという自然現象に変化を与える力が、もともと人間にそなわっているということを、その後何かの本で読んだ。

 セトウチさん、今度、雲切りごっこをしましょうよ。雨雲を切ってピーカンにしてしまうという法力を競いません?

 まあこんなたわいのない話ですが、いい大人が真剣になってやることが大事だと思います。こーいうことを本気でやっていると年も取らないような気がします。何の役にも立たないことを本気でやるのが芸術なんです。ですから、芸術を知識や教養のために学ぶのではなく、芸術を遊ぶことが大事なんです。ねえ、そうですよね、セトウチさん。夢のようなことを本気でやれば長生きします。

 真面目は駄目です。遊びのない人は、面白くないです。自由を知らない人です。芸術のわからない人です。さあ、また来週。

■瀬戸内寂聴「そうだ! 葬儀委員長は美輪さんに頼もう」

 ヨコオさん

 あたたかい冬ですね。寂庵は花盛りです。

 梅がずっと咲き匂っているし、今にも桜まで咲きそうに、つぼみがふくらんでいます。

 私は、毎日ダラダラ寝てばかりです。何をする気にも、なりません。もう半分死んでいるのかもしれない。ムシャムシャ何でも出されたものは、みんな食べているけれど、格別おいしいと、思うこともない。

 それでも、今日は病院へ行ってきました。定期的に行くことになっています。

 三人のなじみのドクターが集まってくれて、三人とも「どこも悪くない、当分、死にそうにない」と、口を揃(そろ)えて言うばかりです。

 両親も、たった一人の姉も、早ばやと死んでいるのに、なぜ私一人が百歳近くまで生き続けるのか、わけがわかりません。

 絵描きの天才は、世界じゅう、長命が多いですね。ヨコオさんも、ニッポン国の天才だから、きっと百三十歳くらいまで生きますよ!!

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