とはいえ小柳方式は絶対ではありません。私はこの練習は何の目的でやるのだろうと考えて、自分なりにアレンジしてきました。インターバル練習は反復回数が増えると泳ぎが崩れやすくなります。北島康介の指導では、トップスピードを上げる「ハード」と泳速を落として泳ぎに気をつける「イージー」を組み合わせたインターバル練習を積極的に取り入れました。

 個別の練習方法が古くなることはあっても、「忍耐力と克己心」「どんな練習でも泳法を考えなければいけない」といった考え方は古くなりません。1年間を準備期、準鍛錬期、鍛錬期といった期別に分けることや、「鍛錬期に入る前に選手の調子をそろえておかなければいけない」というチーム内の相乗効果を大切にする教えなど、小柳方式の基本的な考え方は、コーチの経験を重ねて、その意味が深く理解できるようになったと思います。泳ぎの技術は時代とともに変わっても、人間そのものはそう変わるもんじゃない、ということかもしれません。

 海外遠征の活用の仕方などヘッドコーチとしての考え方も、ミュンヘン五輪に向けた小柳さんの資料が参考になっています。迷ったときに導いてくれる師匠や悩んだときにいつでも元に戻れるような考え方はすごく必要で、それは私にとって小柳方式なのです。(構成/本誌・堀井正明)

週刊朝日  2020年2月21日号

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平井伯昌

平井伯昌

平井伯昌(ひらい・のりまさ)/東京五輪競泳日本代表ヘッドコーチ。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる』(小社刊)など著書多数

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