美輪:(しわがれ声で、小刻みに震えながら)「何を言ってるんだよおまえは……」。

林:わっ、すごい。

美輪:顔も手も自然と震えてくるんです。内的なものの構築の仕方から入ると楽なんですね。技巧をこらすよりも、内面から入ったほうが自然な動きができるんです。

林:今、お顔も本当におばあさんみたいになってきて、びっくりしちゃいました。

美輪:三島さんのセリフは、特に聞かせどころでは、頭に美しく明るく聞こえる母音の言葉を持ってくるんですね。「黒蜥蜴」で、奴隷にした自分の若いツバメの男に黒蜥蜴がしゃべるときなんか、はじめに「あ」の母音が多いんです。「あのときのおまえは美しかったよ。真っ白なセーターを着て、仰向き加減のおまえの顔が、街灯の光を受けて、あたりが青葉の香りでむせるよう。おまえは絵に描いたような悩める若者だった……」って、「あのとき」も「真っ白」も「仰向き加減」も「街灯」も「青葉」もみんな母音が「あ列」でしょ。

林:なるほどねえ。三島由紀夫のセリフって、「今日は星がきれいだわ」って言うときに、延々とその星についての説明があるんですよね。「ちりばめたような……」(そのあとのセリフを言おうとして)すいません、私はまったく思い出せませんが(笑)。三島さんはセリフというより……。

美輪:レトリックが難しいんです。

林:俳優さんにとっては大変な苦行だろうなと思うような長い長いセリフがあって、またそれが朗読したくなるような美しいセリフですけど、それにうっとりしてるとまた展開が始まるんですよね。

美輪:そうなんです。あの人は天才だと思いますよ。

林:三島さんは「どうしても君に『黒蜥蜴』をやってほしい」とおっしゃったそうですね。

美輪:ええ。私、そういう計算は寺山修司の芝居のときもずっとやってたものですからね。「毛皮のマリー」のときも「青森県のせむし男」のときも。三島さんはそれを自分の芝居で活用してほしいとおっしゃったんです。

>>【後編/美輪明宏「悪口を言う人間は…」 紅白歌唱でネット批判「キモい」に持論】へ続く

(構成/本誌・松岡かすみ、編集協力/一木俊雄)

週刊朝日  2020年2月21日号より抜粋