林:はい、拝見しました。美輪さんのエリザベートが出ていらっしゃるだけで、皆さんからフーッとため息が起きるし、凛として立っているだけで美しくて、王妃ってこういう人のことをいうんだなと思うぐらいオーラが漂ってます。
美輪:むかし、イギリスの王室関係のいろんなことをご存じの英国人が教えてくれたんですけど、王侯貴族が食事をするときには背筋をまっすぐにして首を高く持ち上げて、食べ物のほうを口に持ってくるというんです。日本でも「犬食い」は見苦しいとされてますでしょ。
林:はい、みっともない食べ方だって。
美輪:呼びかけられてそっちを向くときも、首だけを向けるんじゃなくて、上半身全体をそっちに向ける。王侯貴族はいかなるときも正面を向いていなきゃいけないから。
林:(自分もやりながら)今さらやっても身につきそうにないな(笑)。
美輪:手振り身振りを交えながら話をするのは下品で、真っ直ぐな姿勢を崩さないようにして威厳を保つんだというんです。それがお芝居で役に立ったんです。
林:なるほど。あの雰囲気は今の若い俳優さんには出せませんものね。背筋を伸ばしても、美輪さんのような感じにはならないと思います。
美輪:ですがもう、ああいう芝居は体力的に無理ですね。「黒蜥蜴」(江戸川乱歩原作・三島由紀夫脚本、68年初演)なんかも、早変わりで男装したり女装したり、ドレスから着物に着替えたりしますでしょ。それも大変だし、「葵上・卒塔婆小町」(96年初演)なんていったら、100歳の老婆と20歳の娘とを早変わりでやらなきゃいけませんしね。声のトーンを変えるので、声帯も酷使しますし、さあ……、これからお芝居をやるのはどうでしょうか。
林:演出を変えるわけにもいきませんものね。
美輪:主役をやらないと、お客さまからお金をいただけないので(笑)。
林:「卒塔婆小町」のあの腰の曲がった下品なおばあさんを思い出します。気味の悪い声で語りかけてくるおばあさん、「ほんとに美輪さんかしら」と思うぐらい、あのおばあさんになり切ってました。