老後こそ、孫を連れて都会を飛び出してほしいという。

「孫に好かれていると自負する人は少ないのですが、少なくとも死ぬまでに孫に好かれたいと思う人は多いんですね。孫と一緒に田舎へ行って、朝早く起きて、クワガタを捕りに行ってください。そこで、おじいちゃんは、朝の樹液にクワガタが寄ってくるのを知っている。孫からすると、何でも知っているスーパーヒーローに見えるんですよ。どんなに地位があって偉いといっても、そんなことで子どもは誰もあなたを好きになってくれませんからね」

■早期退職した後ブドウ農園開設

 朝日新聞社の社員だった岡本なるみさん(50)は2016年に早期退職し、東京と長野県小諸市を往復する2地域居住をしている。

「週刊朝日の副編集長として連載で日本ワインを取り上げていたとき、一からワイナリーを立ち上げたエッセイストで画家の玉村豊男さんが、民間初のワインの栽培・醸造学校を長野県東御市に作ると知ったのがきっかけでした。もともと植物が好きだったので、早期退職して小諸市でワインブドウ農園を始めました」

 玉村さんが開講した「千曲川ワインアカデミー」で1年間学び、18年にブドウ農園を開設。今年、3年がかりで育てたブドウの初収穫を迎え、ワインの醸造に取りかかる。

 理想の土地を探すのに2年ほどかかった。

「家だけでなく、畑も探さなければなりません。借りるだけでも手続きに時間がかかるんです。インターネットで空き家を探して見に行ったり、市の無料移住体験施設に泊まってみたりもしました」

 まず3千平方メートルの畑を借り、その後に中古の戸建てを購入した。改装や農機具の費用が後々かさみ、退職金の多くを充てることになった。

「当初は、小学生の次女と私で先に完全移住しようと思っていたのですが、土地探しに時間がかかっているうちに娘が自我に目覚めてしまい、嫌だと言われてしまったんですよ。たまに夫が手伝いに来てくれる程度で、ほぼ私一人で行き来しています」

 小諸市は人口が約4万2千人。東京から、新幹線としなの鉄道を利用して2時間ほどだ。移住者が少なくないため、移住のハードルがそれほど高くない。

「地域の自治会や消防団に入る人や、子どもがいる人は集落の中に溶け込みやすいのですが、私はたまにしか来ない身。それでも、近所に『いつもいないんだも~ん』と言いながら、野菜やおやきを作って持ってきてくれる方がいるんです。そういう世話好きな人がいてくれて救われています」

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