父母の最期を教訓に、自分の老いを自覚し、それに対処できれば、最期まで自宅で暮らすことができるのではないか。そう考えた大久保さんは、老いへの覚悟と準備を進めるために、老いについて書かれた文献や諸研究を参考に、自分なりに老いの進行を3段階に分け、生活に及ぼす影響について調べた。

 大久保さんは、身体機能が低下し、自宅での暮らしができなくなる段階を「自立限界点」と名付けた。

「自分の今の老化段階を知り、その先を見越すことで、自立限界点を超えないように準備することができるはずだ」(同)

 ただ、大久保さんは「最期まで自宅で暮らすことを望む人は多数いるが、残念ながら、実際には日本人の1割の人しか望みを果たすことができない」と話す。

 自宅での最期にはメリットが多いが、好むと好まざるとにかかわらず、健康面の問題や老化の進行、家族の支援体制の不備などを理由に施設での介護を選択する高齢者やその家族は多い。

 介護施設に入所した場合の生活費は、大久保さんの試算では、「最期まで自宅」よりも2千万円以上上回る。それでも、自宅よりも残りの人生に充実感が得られれば、コスパではそれほど劣らない。

 また、経済的に裕福な高齢者のなかには、さまざまな手厚いサービスと、多くの人とコミュニケーションが楽しめるプランが整った介護施設への入所を自ら選択するケースもある。

 特別養護老人ホーム(特養)は、在宅生活が困難で、原則、要介護3以上を対象に、身体介護を中心とした介護サービスを提供する。住まいとしての機能もあり、高度な医療ケアが必要な状態でなければ、人生の最期まで住み続けることが可能である。利用者は、保険の自己負担として、費用の1割(一定以上の所得者は2~3割)と食費・居住費を支払うことが基本で、民間の介護付きホームに比べて負担が少ない。このため、特養への入所希望者は多く、順番待ちの状態であるケースが多い。

 ただ、特養など国の介護保険制度で運営している施設は、同制度で定められた範囲の事業を限られたリソースでこなすため、その範囲内での介護サービスしか期待できない。食事のメニューや時間などは個人の好みや事情に十分に対応できず、入浴回数も限定的など「施設側の都合」が最優先される。このため、富裕層を中心に、手厚いサービスや個人の都合に応じた生活が実現できる民間の高級介護付きホームを選ぶケースが増えているという。

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