林:どうやってお金を稼いでいたんですか。

橋田:少女小説を書いて稼いでたんです。小糸のぶさん(小説家)がその当時の先生でした。漫画の原作も書いてました。

林:そのまま小説家になろうとは思わなかったんですか。

橋田:思いません。面倒くさい。セリフだけ書いていたいんです。

林:先生はご自分が書いたセリフを一回言葉に出したりします?

橋田:しませんね。

林:口に出したら言いづらかったということありませんか。

橋田:「書いたとおりにちゃんと言え!」って言います(笑)。俳優さんに対する思いやりがまったくないんですよ。

林:若いころ「この俳優さん、スケジュールが急に変わってダメになったから、台本を変えてください」とか要求されたことありますか。

橋田:それは今までありません。

林:それ、すごい。今は俳優さんの都合が優先されるって聞きますが、先生はそれがなかったんですね。

橋田:石井さんとか、「おしん」の岡本(現小林)由紀子さんとか、プロデューサーがしっかりしてたんですよ。私はしっかりしたプロデューサーとしか仕事しませんから。

林:小林由紀子さんにも、昔ここに出ていただきました。

橋田:あの人はすごくプロデュース力がありましたね。今「おしん」なんて作品できないですよ。あれだけのものをつくったんですから、すごい人です。

林:あれは脚本も素晴らしいけど、俳優さんたちがみんな迫真の演技をしてましたよね。泉ピン子さんなんか鬼気迫る感じで。

橋田:いい俳優を使っていただいた由紀ちゃんの力です。

林:「おしん」が大ブームのとき、NHKに行ったら田中裕子さん(成長したおしん役)がいたので、ちょっと会釈したら、無視されたというか、あのとき精神的にギリギリ追い詰められていて、まったく余裕がなかったみたいでした。

橋田:そうなんです。あとで聞いて謝りました。セリフは長いし、あの役嫌いだったんですって。はっきり言われました。でも、わかります。あの人の中にああいうおしん的なものはまったくないんです。マイペースな方ですからね。役にすごく抵抗があったみたい。それはよくわかります。

林:今、先生は若い脚本家のドラマとかごらんになります?

橋田:このごろの新しいドラマ、見てもわからないんですよ。興味がなくなっちゃったんです。

林:「朝ドラ」も見ないですか。

橋田:見ない。私は自分の敵になるものしか見ないんです。今は仕事しないから敵がないんです。昔は「朝ドラ」を書くからずっと見てたし、「大河」も書きたいからずっと見てたけど、今は敵がないから見ない。

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

週刊朝日  2020年2月14日号より抜粋