「歯が汚いことと、歯周病は直接の関係はありません。歯石の除去をしても、歯周ポケットは治療できないのです。歯周病とは、歯の汚れではなく、歯周病菌によってあごが腐っていく感染症だからです」

 歯肉のポケットの中に入り込んだ細菌が血液に入ると、体内の様々な場所をめぐり、細菌性の心内膜炎などを引き起こす可能性もある。無麻酔でのデンタルケアは、それらの根本治療にはならないと前出の天野さんも指摘する。

 水越さんもこう話す。

「小さいときから歯磨きができるようにして、健康診断時に獣医さんにデンタルチェックをお願いし、必要になったら麻酔をかけてキレイにするというのが良いと思います。歯磨きをしていても歯周病になってしまう人がいます。犬も一緒です。獣医さんに診てもらうのが大切」

 人間と同様に、病気の早期発見・早期治療を目指し、年に1回のドッグドック(犬の健康診断)を受けよう。

「ドッグドックはシニア犬になってからで」と考えている人もいるかもしれないが、水越さんはこう指摘する。

「若いうちから受けたほうが絶対に良い。かかりつけ医を持ち、顔なじみになっておけば、犬にとっても健診のハードルは低くなるし、飼い主も、ささいな変化の相談もしやすくなる」

 その点を踏まえ必要なのは、「常日頃からわが子(犬)を観察してください。それに尽きるんです」(水越さん)。

 犬は言葉が話せない。腹痛や吐き気、頭痛などの症状を説明したり、伝えたりできない。飼い主が、いつもと違うな、と早い段階で気づき、対処することが早期治療につながる。

「異常が起きたときなど、高齢犬であればあるほど危険度が高まります。『2、3日様子を見てから』ではなく、すぐに病院に行ってほしい。たとえば、戻したり、下痢をしたりしていて、いつもと違う様子だったら即病院へ」(同)

 ちなみに、記者の犬は、どこかに痛みがあるときは姿を隠す行動をとる。何度か続いたときに、家人がおかしいと感じて病院に連れていき、わかったことだ。

 犬もシニアの域に入れば、食は細く、眠る時間は多くなり、行動にも変化が出てくる。

 環境省動物愛護管理室によると、老化のサインとなる行動は、反応が鈍くなる▽運動量が減る▽トイレをうまく使えなくなる▽段差でつまずく▽高いところに跳び上がれなくなる、など。

 それまでは軽く飛び乗ってきたソファにも来られなくなるのだ。悲しいが、それが現実だ。できなくなることが多くなるため、過ごしやすい部屋作りをすることも心がけたい。

 同管理室が推奨するのは、トイレの入り口を浅くして段差をなくしたり、スロープをつけたりし、食器も高く食べやすい位置にする。寝床はやわらかい素材で涼しい場所と暖かい場所に置く。床もマットなどを敷いて、滑りにくくする──などの工夫だ。

 愛犬の様子を長く、わずかな変化も逃さないように「見続ける」。変化の理由を「想像する」。そのために、常に「心を寄せて接する」。

 人間も犬も、長寿のために必要なことは同じなのだろう。(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2020年2月14日号