──それにしても、なぜゴーンは逃亡を図ったのですかね。

「2020年に(特別背任罪の)裁判が始まることになっていたのが21年以降に延期され、それまで奥さんに会えない。それに最高裁での決着まで10年ほどかかりそうで、それまで我慢できない、ということでした」

──郷原さんは、実は東京地検特捜部のゴーン逮捕・起訴そのものが問題だとおっしゃっていますね。

「一般的に経営トップが不正によって解任されるときは、その不正が取締役会に報告され、解任が決議されるわけですが、ゴーンの場合はいきなり(金融商品取引法違反容疑で)逮捕されて、その後に取締役会で解任が決議されたのです。ゴーンは退職後に役員報酬額と同程度の報酬を受け取ることになっていた、ということですが、これを実行するのはそのときの取締役会で、ゴーンにはその権限はありません。それに、そのことが取締役会で定められていたとすれば、当然、西川社長(当時)などの幹部は合意しているわけで、その西川氏がゴーン逮捕後に、ゴーンの不正に憤り、しかも西川氏の責任は問われないというのは、どうにも納得がいきません。ゴーンが『日産のクーデター』だというのも理解できます」

 そして、郷原氏はゴーンを有罪にするのは無理がありすぎると語った。

 となると日本の警察・検察のあり方、司法制度をあらためて根本から考え直さざるを得なくなる。そのための意味のある事件だといえる。

週刊朝日  2020年2月14日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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