菅官房長官が師匠と仰ぐのが、橋本龍太郎内閣で官房長官だった梶山静六氏。その時、黒川氏と似たポジションにいたのが、元東京高検検事長、根来泰周氏だった。自民党のベテラン議員はこういう。

「梶山氏と根来氏はNKラインと呼ばれた。当時、政界では佐川急便事件などで、竹下派に逆風が吹いていた。その時、根来氏が黒川氏のような存在で、大ごとにならぬようにまとめていた。根来氏は絶対に検事総長だと、太鼓判を押されていた。しかし、あまりにも官邸に近いと、検察内部で問題になり、定年で去っていった。その時も官邸は、法務・検察の人事には口出ししなかったんだ。梶山氏は根来氏を公正取引委員会の委員長とすることで処遇した。なぜ、菅氏は梶山氏を見習わなかったのか」

 前出の高検検事長経験者の弁護士はこういう。

「閣議決定された以上、黒川氏の定年延長は官邸の関与がはっきりとしている。稲田氏には昨年11月頃に、官邸サイドからそろそろやめろという話があったと聞いている。検察官が辞めるのは、定年か懲戒免職か検察官適格審査会に引っかかるしかない。稲田氏はやめないと返事をし、黒川氏の後任は名古屋の林君という腹積もりをしていたようだ。それなのに黒川氏の定年延長を官邸が勝手に決めた。検察と一戦をまじえると、宣戦布告だ。検察と官邸、過去の歴史にないほどの暗闘がはじまったよ」(前出・高検検事長経験者の弁護士)

 そもそも検事総長には定年は65歳。稲田氏は今年8月14日が誕生日で64歳となるので、続けられる。一方、黒川氏の延長は8月7日まで。稲田氏が誕生日まで辞めないと黒川氏は再延長するしかない。黒川氏の「延長」は最大1年未満までしか認められないので、来年2月7日まで。つまり、稲田氏が来年の黒川氏の誕生日まで、検事総長の座を譲らなければ、官邸が敗れ去る。

「検察内では、官邸のあまりにひどいやり口に、稲田検事総長に頑張れという声が高まっている。官邸に逆襲するためにバンバン、事件をやって検察の威信を見せつけるべきだという人も多い」(前出・現職検事)

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安倍政権VS検察の暗闘