<学習塾から売り上げが減ったとして請求が来た。だが、経営者は高級外車に乗り、豪勢な海外旅行を楽しんでいた。調べると、別会社を通じてすでに賠償を受けていたことが判明。二重請求だった>

 賠償請求の手続きは簡単なうえ、被災者救済の賠償である以上、請求を信じる原則の上に制度が成り立っている。それを詐欺師たちが悪用したのだ。

「原発事故の賠償金詐欺は、金の密輸や振り込め詐欺に続く闇社会での収益源になっています。会社や個人事業主を抱き込み、手続きを教えて賠償金を山分けする。バレないように弁護士や行政書士と組んで申請を代行することもあると言います。明らかになっていないものを含めれば、不正受領は相当な額に上るでしょう」(高木氏)

 東電にも責任があると、高木氏は指摘する。

「東電は賠償金の支払いノルマをこなさないと国から原資の借り入れが受けられない。そのため、請求書の審査は流れ作業でおざなりになりがちです。しかも、不正の摘発に本腰を入れているとも思えない。詐欺師が付け入るスキを自ら作っているのです」

 本来賠償を受けるべき被災者が不利益を被っていると話すのは、前出の一井氏だ。

「個人的には公平な賠償に努めましたが、東京電力全体では反社や原発関連企業であることを理由に賠償をしないという不公平な方針でした。不正な請求が話題となったことで、まともに賠償をされていない被災者が東京電力に異議を唱えることを過大な請求だと見る方もいます。不正な請求によって多くの被災者が周りの理解を得にくくなり、心労が重なっています。本当に気の毒でなりません」

 不正賠償について東京電力ホールディングスに尋ねると、こう答えた。

「現在、3千人を超える賠償担当者が在籍し、請求書に記入されている内容と提出された証票等、領収書などを照らし合わせて正当な請求かどうかを確認しています。我々だけでは事実確認が難しい場合には、弁護士、税務会計の専門家、不正の検査士の知見を活用して正確な確認を徹底しています。不正な受領が発生した場合には、裁判なども含めて被害金の回収を含めて毅然(きぜん)とした対応をしているところです」(広報室)

 東電が支払う賠償金の原資は電気料金と税金だ。無駄に使われてはならない。

週刊朝日  2020年2月7日号