廃炉作業が続く東京電力福島第一原発=2019年2月17日 (c)朝日新聞社
廃炉作業が続く東京電力福島第一原発=2019年2月17日 (c)朝日新聞社
東京電力の代理人弁護士が、不正請求をした企業に送付した文書の写し。「本件は刑事事件となる見込みが極めて高い」と記されている (c)朝日新聞社
東京電力の代理人弁護士が、不正請求をした企業に送付した文書の写し。「本件は刑事事件となる見込みが極めて高い」と記されている (c)朝日新聞社

 福島第一原発事故で被害を受けた個人や法人に東京電力が支払う原子力損害賠償。現在までの賠償件数は約272万件、賠償総額は9兆3千億円(国から東電へ請求する除染費用を含む)を超えた。その賠償金を狙う詐欺事件が後を絶たない。ジャーナリストの桐島瞬氏がその実態に迫る。

【写真】不正請求をした企業に送付した文書の写し

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 2019年10月、警視庁は札幌市の男(当時50)ら9人の男女を逮捕した。男らは、福島県いわき市のスナック経営者から売上書類を集めて東電に水増しした賠償を請求、約2600万円をだまし取ったとされる。12~17年に、同様の手口で受領した賠償金は計4億8千万円に上る。

 また、賠償金約3800万円を東電から詐取したとして詐欺罪に問われた福島県郡山市の元旅館女将(おかみ・61)に対する判決が1月23日、福島地裁であり、柴田雅司裁判官は懲役3年執行猶予4年の判決(求刑懲役3年)を言い渡した。

 こうした詐欺事件は、氷山の一角に過ぎない。東電は不正請求の件数や不正に支払った賠償金額を公表していないものの、事件化されていないものを含めると相当な額に上ると見られる。

 元東電社員で福島第一原発事故後に法人賠償部門の総括をしていた一井唯史氏は、不正請求ではないかとみられる事例をいくつか経験した。

「ある地方の乳業の協同組合から、牛乳に含まれる放射性物質の検査費用に関して請求が来ました。ところが、同じ内容の請求がこの組合と関係する牛乳メーカーからも届いたのです。請求額は数百万円。善意に解釈すればどちらかが手続きの方法を間違えたとも言えますが、故意に二重請求した疑いも捨てきれません」

 派遣コンパニオン業者(デリバリーヘルス)を巡る不正請求もあった。14年6月、警視庁は横浜市の男(当時44)を詐欺容疑で逮捕した。男らは福島県でのコンパニオン派遣業の売り上げが原発事故の影響で減ったとして、知人らの名前を借りて複数の架空賠償請求を行い、2400万円をだまし取ったとされる。

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