「医学誌『Acta Neuropathologica』の15年の論文が、米国にある脳バンクの脳の検体調査をもとに、接触型スポーツ経験者の3割以上がCTEになると示すなど、CTEの発症リスクが接触型スポーツにあるのは自明。広く周知させるべきです」

 サッカーも脳疾患リスクの上昇が疑われるスポーツだ。CTEに対する警戒心が最も強いアメリカでは現在、10歳以下の子供のヘディングは完全禁止。11~13歳の子供も制限がある。

「ヘディングが多い選手はCTEやパーキンソン病様症状など脳神経症状の発症リスクが上昇するという海外の研究や報道が複数あります。認知症を含めた神経疾患を疑って医療機関を受診した際には、医師にスポーツ歴も伝えるべきです」(谷口医師)

 とはいえ、過度に恐れる必要はないようだ。

 ここ4、5年で、ラグビーを筆頭に接触型スポーツは脳振盪に関するガイドラインを厳粛化している。

「脳振盪発生時には必ずプレーを中止し、必要な手当てを受け、段階的復帰プロトコルに従って練習・試合に復帰することとなっています」(日本ラグビーフットボール協会)

 さらにラグビーの国際大会では、頭部損傷評価(HIA)を実施する。先のラグビーW杯で、相手と激しく衝突した選手がピッチ外に退き、代わりに別の選手が一時出場した措置も、現場のスポーツドクターのHIAによる判断だった。

 他競技でも脳振盪へのケアを徹底している。日本アメリカンフットボール協会は、

「脳振盪が疑われた場合にはプレーを中止し、当日の復帰は不可で段階的に復帰する」

 とラグビーとほぼ同様の措置を取っている。

 ボクシングでは、KO負けした選手を中心に医師の指示を仰ぎながら、試合後90~120日のトレーニング、スパーリングの禁止期間などが設けられる。日本ボクシングコミッションは、「レフェリーストップが10年前に比べて格段に早くなっています。以前ならスタンディングで脳振盪を起こしている状態ではカウントを取りました。現在はその状態でストップをかけ、TKOの判断を下します。選手の安全を目的とした行為だと認知拡大しているので、お客様の不満の声はほとんどありません」と説明する。

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