前出の榎本さんも言う。

「欲求不満状態になると、人は異常な攻撃性を出してくるものです」

 近年は、正論を振りかざして他人を攻撃してくる人間が、事件を起こしてニュースになったり、ワイドショーのトピックとして取り上げられることも多い。

「そういう人が目立つようになってきたということは、社会全体に欲求不満が渦巻いているということの表れです。思うようにならない自分、報われない自分を抱えて生きている人が多いのかもしれません。政府は『一億総活躍社会』という言葉を掲げていますが、多くの人は生活を成り立たせるために働いているのであって、活躍するために生きているのではありません。にもかかわらず“活躍して輝かなければ”とけしかけられれば、それは欲求不満にもなりますよね」(榎本さん)

 だが、その欲求不満の塊をのべつ幕なしにぶつけ合うようになっては、社会は混乱するばかりだ。暮らしの中で大きなトラブルに巻き込まれないように、そしてまた自らが大きなトラブルを引き起こさないようにするためには、どんなことに気を配るべきなのか。

「実生活において正論を振りかざしてくる人に出くわしたときは、その人の話を全肯定する必要はありませんが、話は聞いてあげないといけないと思います。大切なのは、正論の裏側に隠されている『感情』を見ること。そしてあからさまな否定や批判や反論をしないことです。人と人との関係において、一方的に怒り続けるということは実は結構難しいのです。口喧嘩やトラブルに発展するのは、話を受ける側がストレートに反論して、相手にどんどん燃料を与えてしまうからです」(藤井さん)

 またツイッターなどで拡散されてくる“正論らしきもの”に安易に便乗しないことも大事だと、心療内科医の梅谷薫さんは言う。

「ネットというのは、感情の増幅装置なのです。カッとなって感情的な発信をしないということは大前提ですが、リツイートで回ってきた話を『詳細はよく知らないけれど、おもしろいからリツイート』などということをするのも要注意。自分では何の悪意も持っていなかったとしても、無責任なリツイートはさまざまな人たちの感情をあおり、大炎上を引き起こすことにもつながりかねません」

週刊朝日  2020年1月31日号より抜粋