もう一つ、高齢者てんかんで関心を集めているトピックがある。てんかんは認知症と深い関わりがあることがわかってきたのだ。

 昨年12月に開催された米国てんかん学会に参加した久保田さんは、「実は、高齢者てんかんとアルツハイマー病は、お互いに作用し合い、負のスパイラルをもたらしていることが、専門家の間で指摘されているのです」と報告する。

 認知症の一つアルツハイマー病では、患者の脳の神経細胞にアミロイドベータやタウタンパクといった不純物が蓄積していることが知られている。これらの不純物には神経毒性があるため、それが原因で神経細胞が“ショート”し、てんかん発作を起こすというのがそのメカニズムだ。

 加えて、てんかん発作が起こると神経細胞からはある種のアミノ酸が放出される。それが神経細胞にダメージを与え、アルツハイマー病を進行させてしまう。

 この指摘はまだ検証中であり今後の研究結果が待たれるが、アメリカの医学誌には、アルツハイマー病の患者の7~10%に高齢者てんかんが、高齢者てんかんの患者の10%にアルツハイマー病があることが報告されているという。

「これはたいへん重要なことだと考えています。なぜなら、現段階ではアルツハイマー病は治すことはできませんが、てんかんをしっかり治療することで、アルツハイマー病の進行を抑えられる可能性があるからです」(久保田さん)

 抗てんかん薬が認知症の予防薬になるかもしれない──。久保田さんらはそう期待して、近い時期に認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)の人を対象にして、抗てんかん薬にアルツハイマー病の予防効果があるかどうかをみる臨床試験を多施設共同で開始する予定だ。

 子どもが発症するイメージが強く、これまで見過ごされることも多かったシニアのてんかん。家族や自分の行動に不安や心当たりがあれば、一度医療機関に相談してみてほしい。(本誌・山内リカ)

週刊朝日  2020年1月31日号