「脳卒中では脳の血管が切れたり詰まったりしますが、その際に神経回路の一部がダメージを受けてしまう。それがてんかん発作の原因となります。脳卒中を発症した後にてんかん発作があり、ほかに原因がなければ脳卒中後てんかんを疑います」(同)

 残り半分の原因は今のところわかっていないが、赤松さんは「加齢によるもの」と推測する。加齢によって脳の一部が変性し、てんかん発作を起こすという。

 こうした高齢者てんかんで注目したいのは、シニアの自動車運転中の事故と無関係ではないことだ。実は、物損や軽傷の事故がきっかけでてんかんが見つかるケースは少なくないと、赤松さんは指摘する。

「初診の患者さんに話を聞くと、3カ月前に追突事故を起こしたとか、ガレージに車をぶつけたとか、そんなことを話される方もいます。車に限らず、自転車に乗っているときや機械操作をしているときに事故を起こした例もあります」

 高齢者が引き起こす交通事故は、記憶力や判断力などの認知機能の低下が影響しているといわれている。そのため、2009年からは、運転免許証の更新期間が満了する日の年齢が75歳以上のドライバーは、高齢者講習の前に認知機能検査を受ける必要がある。

 東京女子医科大学東医療センター(東京都荒川区)脳神経外科講師の久保田有一さんは、さらに、「高齢者は認知症だけでなく、てんかんの可能性も疑ってほしい」と訴える。

「認知機能の低下で想定される交通事故は、ブレーキとアクセルを踏み間違える、とっさに状況判断ができないといったことで生じます。一方、てんかんではボーッとして意識がない状態になるので、赤信号になってもアクセルを踏みっぱなしでいるとか、逆走しても気付かないまま走行するという可能性が考えられます」(久保田さん)

 てんかん発作は、突然、起こり、しばらくすると治まる。意識が元の状態に戻った後は認知機能も脳波も、健康な人とまったく変わらない。交通事故が起こっても、本人の申告がなければ、それがてんかん発作によるものなのか、事故後に究明するのは難しい。

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