「昔からの状態を知る家族だからこそ、見極められることもある。例えば介護への抵抗の仕方ひとつとってもそうで、介護への拒否が強い、自分で治療方針を決めたがる、介護全般に対して批判するなど。認知症であっても発達障害であっても、ありうる行動ですが、それが今に始まったことなのか、昔からそうなのかによって測ることができる面も大きい」(同)

 発達障害は、自身を客観視しづらい。多くの場合、家族など周囲の人が発達障害を疑って専門外来などに連れてくることが多いという。さらに発達障害は、症状と呼べるものなのかどうかのグレーゾーンが大きく、診断しづらい面もある。誰にでも気分の波があるように、生活環境や人間関係などで症状が強く出る場合もあれば、不自由がないまま過ごせる場合もある。

 成人発達障害の専門外来を持つ昭和大学発達障害医療研究所所長の加藤進昌医師は言う。

「治療をするかどうかは、本人や周囲がどれだけ危機感を持っているか。また普段の生活にどれだけ支障が出ているか。逆に生活で不自由を感じていなければ、全く問題はありません」

 治療法は、薬の処方によるものや対人コミュニケーションのスキルアップのトレーニング、カウンセリングなど、症状に合わせてさまざまだ。治療によってすぐに改善されるものではないため、日常生活に支障をきたさないための方法をじっくりと探っていくことになる。加藤医師は続ける。

「何事も効率重視の現代、発達障害の人たちに対する風当たりが強くなってきているのも事実です」

 以前は、病気という認識がまだなかったこともあるが、発達障害も「個性」として捉える余裕があった。だが現代は、個人の違いに対応できるだけの余裕が社会全体でなくなっている。

「そうした変化から、発達障害の人の強い個性やミスなどが目立つようになっている側面もあります」(加藤医師)

 年を重ねてから疑った場合でも、悪化を防ぎ、治療を進めることはできる。発達障害は認知症のように老年期から始まるものではない。当事者にその感覚がないからこそ、身近にいる家族の客観的な視点が欠かせない。間違った診断で苦しまないためにも、心当たりがあれば一度、専門外来を受診してみよう。(本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2020年1月31日号

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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