その考えが幼稚だ。血税を無駄遣いしているのは誰だ? 過酷な障害者施設の現場に金を出さないのは誰だ? 多種多様な人々がすべて幸せに生きられる社会に向かって進んでいくことが理想なのに、その理想を掲げることもできないほど、我々の生活や心を荒(すさ)ませているのは誰だ?

 この国には植松被告と似たような危険なことをいい放つ、政治家や著名人がいる。一部の人間には、彼らの野蛮さが、強く格好良いものに見えるらしい。

 断言する。たしかにこの国は今後、貧しくなっていく。そのときに、多くの人たちは見捨てられた気分になる。今も、そういう気分の人はいるのかもしれない。でもそれは、自分以外の誰かじゃない。いずれは自分だ。もう一回断言する。格好良く見えていた政治家や著名人は真っ先にトンズラする。

 そのときに、自分の気持ちだけでも救われたくないか? ならば今、多種多様な人が幸せに生きられるように、と声高にいわなくてはならない。

週刊朝日  2020年1月31日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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