最後の2行がいいですね。ふとした情景にこの世の真実を感じるのは心に余裕があってこそです。

 実は私も最近、「此中有眞意 欲辨已忘言」の心境になりました。

 朝霧(あさぎり)高原に行く機会があり、雄大な富士山を見たのです。

 中腹より少し下に薄い雲の層がかかっていました。その雲の層がやがて黄金色に輝きます。陽が沈もうとしているのです。黄金色が赤みを帯びてきました。その赤みを帯びた黄金色が頂上に向かって広がり始めました。ゆっくりとした変化ですが着実に広がっていきます。そして最後には大きな富士山全体が赤一色になりました。

「あっ。これが赤富士だ」

 感動が全身を満たしました。このとき、私は自分の借金のことも忘れ(笑)、この世の真実を感じることができたのです。これこそが心の余裕ではないでしょうか。

週刊朝日  2020年1月24日号

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帯津良一

帯津良一

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

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