「あ、そう。どうやら、その子に決(きま)りそうね。ショーケンの声が上ずってる」

「よせやい、オレ、耳が遠いので声が大きいのよ。お母さん、知ってるでしょ」

 そんな会話もなつかしくなりました。

 ヨコオさんとショーケンの新幹線の中の大声の会話の話、笑ってしまいました。うちのまなほと新幹線に乗ると、難聴の私のため、まなほがすっかり大声になっていて、他人に聞かれては具合の悪い話も、ベラベラ喋(しゃべ)るので、他の乗客が面白がって、シーンと聞き入るので困ってしまいます。

 私も早くから難聴になっているので、ヨコオさんやショーケンの大声も平気です。ショーケンは薬でつかまって、執行猶予何年とかで出て来た時、娑婆(しゃば)で行き場がなく、京都で芸能人の面倒を見るのが生甲斐(いきがい)のガソリン屋さんが、寂庵へ連れて来たのです。その時のショーケンはいしだあゆみさんと結婚していました。

 初対面のショーケンはうなだれきって、目もあげず、見るも痛々しい感じです。私をはじめ、当時五人いた若いスタッフたちは、揃(そろ)って熱烈なショーケンファンなので、大喜びで舞い上がってしまいました。新幹線車中も、乗客が大きくショーケンの写真入りの新聞を広げているので、席に座っていられず、三時間、トイレの中にかくれていたと聞いて、スタッフたちは泣いて同情しました。何も食べていないショーケンのために、スタッフがたちまち、すき焼きの用意をして、すすめると、

「いただいて、いいのですか?」

 とうなだれて、食べはじめました。

 頬を涙で光らせて一心に食べるショーケンは、映画の中の人のようで、私たちは息をのんで、うっとり見とれました。

 ガソリン屋は帰ってゆき、寂庵の一間にショーケンはかくれて住みはじめました。さあ大変、それからの話がまだ一杯したいです。聞いてくれますか? どこにも書かず、誰にも話していないその後の真実を!

 おやすみなさい。

週刊朝日  2020年1月24日号