日イラン首脳会談で握手するロハ二大統領と安倍晋三首相(c)朝日新聞社
日イラン首脳会談で握手するロハ二大統領と安倍晋三首相(c)朝日新聞社

 緊張が高まるイランと米国の関係は、最悪の事態は避けられたものの、偶発的な衝突から紛争に発展する懸念は消えたわけではない。今後どんなシナリオが予想されるのか――。

今回、イランは、米軍がイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したことへの報復として、イラクの米軍駐留基地にミサイル攻撃をした。イランの革命防衛隊はイランへの攻撃に米国の同盟国の領土が使われた場合、「反撃の標的になる」と警告していた。イランと日本は良好な関係とはいえ、在日米軍施設(共同使用施設を含む)は全国で131施設・区域に上る。今後の自衛隊の中東での活動内容や安倍首相の言動によっては、米国の同盟国日本が危険にさらされる可能性もある。

 テロ問題に詳しい明治大の小林良樹特任教授は「イスラム革命防衛隊がわざわざ日本に対してテロリストを送り込んで、攻撃を仕掛ける可能性は低い」と組織的な攻撃は否定しながらも、「起こるとしたら、ローンウルフ(一匹おおかみ)型のテロだ」と指摘する。

 ローンウルフ型テロとは、テロ組織に所属したり支援を受けたりせず、個人が自発的に行うテロ行為のことだ。テロ組織と直接的な接点がないため、事前に活動を察知することが難しく、近年、その危険性が各国で認識されている。日本国内で反米思想に共鳴した個人が活動する可能性は低いが、ゼロではないという。

「在日米軍にテロをすることは難しく、標的にはなりづらい。むしろ、米国人が使うホテルやレストランなど狙いやすい場所が標的となる可能性があり、一応の注意は必要です。ただし過剰に反応する必要はないでしょう」(小林特任教授)

 海外で日本人旅行者や企業が巻き込まれることもある。国際テロに詳しい日本大の安部川元伸教授はレバノンのテロ組織ヒズボラの動きに注目する。イランから財政・軍事面で支援を受けているとされる組織で、各地でテロ活動を行ってきた“実動部隊”だ。今のところヒズボラは米国の民間人には危害を加えない姿勢をみせているが、今後の展開は読めない。安部川教授はこう見る。

「わざわざ米国本土まで行ってテロを起こすことは考えにくいですが、地理的条件から、中東地域や欧州全域でテロ活動のリスクは高まります。特に米国系のホテルや飲食店などは標的になりやすいでしょう」

 近年のテロは多様化しており、ドローンによる攻撃やサイバーテロもある。

 テロ組織が国際社会にインパクトを与えるとした場合、最も心配されるのが今夏の東京五輪だろう。米国選手団をはじめ、観光客も多数来る。実際、16年にブラジルで開催された五輪では、ISに忠誠を誓う十数人がテロを計画したとして逮捕された。日本にとっても遠い国の出来事ではない。

 オオコシセキュリティコンサルタンツのアドバイザーで清和大非常勤講師の和田大樹氏(国際テロリズム論専門)はこう指摘する。

「反米感情を持った人が日本に来る可能性は十分にある。海外の紛争や宗教・民族対立の構図が日本に持ち込まれるということです。小さな暴力沙汰からテロ行為まで可能性を考え、行動する必要があります」

(本誌・吉崎洋夫)

※週刊朝日1月24日号に加筆

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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