桐野:順番が違いますね。

前川:しかも貧困家庭の場合には、もともと保育料全額免除制度があったから、無償化でメリットが増えるわけじゃない。それに無償というのは全員タダになるわけですから、大金持ちの人もタダになる。つまり貧困層には恩恵がなくて、富裕層には恩恵があるわけですから、むしろ格差を広げているんですよ。

桐野:今の状況が少しでも良くなればいい、と思うのですが、物書きはただ見て、そこに生きている人を書こう、と思うだけです。それにしても、暗いテーマしか思いつかないですね。

前川:それでも、ぜひ書いていただきたい。時代を直視する、ということは大事なことだと思います。政治家が見ている世界は、まだ「標準家庭」が残っているごく一部の世界だと思う。

 もっと実態を知らないと、社会を良くすることはできません。多くの人たちが見えない部分を見えるようにしてあげるということは大事だと思う。そういう意味でも、桐野さんの本を読んでもらわなくちゃいけない。安倍さんにも読んでもらいたいですよ。

桐野:ありがとうございます。私は書くことしかできないので、これからも書き続けます。若い男性の荒廃をテーマにした小説を、まもなくこの週刊朝日誌上で始めます。

 前川さんの2020年の目標は何ですか?

前川:「アベと共に去りぬ」。今、各地の講演に呼ばれて“フーテンの寅さん”みたいな生活をしているんですが、私の話を聞きたい、という人には、今の政権が好きじゃない人たちが多い。安倍さんが退陣すれば、もう私を呼ぶ必要もなくなりますから(笑)。

(構成/本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2020年1月17日号より抜粋