そんなこんなで、2019年もまた百五十本以上の映画を見た(いつもよめはんと行くシネコンで十数本。あとはDVDだが、早送りもスキップもせず、結末までまともに見るのは五本に一本か。だから本数が多い)。

 期待して見た映画で、そのとおりだったのが、『スノー・ロワイヤル』『ジョーカー』『ターミネーター:ニュー・フェイト』。

 期待せずに見て、佳品だったのが『テッド・バンディ』か(ほかにもおもしろいと思った映画はあったはずだが、忘れた)。

『スノー~』はブラックコメディーともいえるシナリオ、『ジョーカー』はこの作品のために二十キロ以上も減量したという主役ホアキン・フェニックス畢生(ひっせい)の演技、『ターミネーター~』は『ターミネーター2』正統のすさまじいアクションがよかった。

 そうそう、『ボーダー 二つの世界』という問題作も見たが、北欧のトロル伝説を下敷きにしたダークファンタジーで、まじめな映画だったが、陰鬱(いんうつ)な映像がわたしにはしんどかった──。

 そうして今日、よめはんが部屋に来た。「ピーヨコちゃん」と、またも機嫌がいい。

「はいはい、『ヒックとドラゴン』ですね」

 わたしは抵抗せず、ズボンを穿(は)き替えてダウンジャケットをはおった。

週刊朝日  2020年1月17日号

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黒川博行

黒川博行

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

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