こう語る松村さんが「究極のマニュアル」だと自信を示すのが、「グレイスビジョン」。人工知能(AI)や拡張現実(AR)を活用したメガネ型の装置で、2020年から本格的に展開する。

 搭載したカメラとマイクによってAIが作業者の動作を認識し、やるべきことを指示する。国内大手メーカーに一部導入されており、海外企業の関心も高い。松村さんは、マニュアルの概念が大きく変わると訴える。

「ベテランの作業員が横に立って教えてくれるイメージです。ぶ厚いマニュアルをめくって、いちいち手順を確認しながら作業する煩わしさがなくなります」

 装置に組み込んだAIは自社開発した。大手IT関連会社に相談したが、開発にかかる時間や費用が膨らむと回答された。そこで自力で開発したところ、予想より短期間で完成できたという。

「手順を体系立てて分かりやすく示す、というマニュアルづくりのノウハウが、AIの開発にも生きました」

 19年11月には米シカゴに現地法人を立ち上げた。米国の大手IT関連会社などにもグレイスビジョンを売り込む計画だ。

 松村さんは、2020年はAIやVRの技術がさらに進歩し、私たちの生活が便利になる節目の年になると期待する。

 「AIが使える範囲に限りはありません。グレイスビジョンの技術を応用すれば、職種や仕事の内容を問わず、あらゆることがサポートできます。企業向けに加え、消費者向けの展開も考えています。家電の操作法や料理の手順が簡単にわかるようになり、介護教育の現場にも応用可能です。生活が便利になるように、マニュアルに革命を起こしていきます」

 グレイステクノロジーは、これまで主に企業向けのマニュアルを手がけてきた。社会を大きく変えるには、一般の消費者向けも重要だ。新しい分野だけに課題も多いが、松村さんの挑戦は続く。

(本誌・池田正史)
※週刊朝日オンライン限定記事

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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