映画館に行く代わりに、わが家には今これが一番大きいというテレビがあります。それは映画を観るためです。観る映画はほとんど古い時代のものです。新しい作品より古い映画から受ける影響の方が遥(はる)かに多いし、大きいです。難聴なので字幕の出る洋画が中心になりますが、黒澤映画と小津映画だけは全作品を繰り返し観ています。

 外国映画で好きなのはやはり、フェデリコ・フェリーニ、アルフレッド・ヒッチコックです。セシル・B・デミルのような歴史映画やターザン映画も好きです。新しいものの中に新しさを発見するより、古いものの中に新しさを発見する方が愉しいです。1920年代のシュルレアリスムの映画や、1960年代のヌーベルバーグ映画などは片っ端から観ましたね。そんな映画に出演した、女優さんのマリー・ラフォレやアンヌ・ビアゼムスキー、アンナ・カリーナの大ファンですが、3人共、最近亡くなってしまいました。美人でもというか美人だから早く死ぬんですかね。長寿のセトウチさんが美人ではないと言ってはいませんよ。ホナ、ご機嫌よう。

■瀬戸内寂聴「寂庵が建ち45年。歳月とは不思議なもの」

 ヨコオさん

 まあ、日の経つのが速いこと!

 もうすぐ今年も終ります。寂庵は庭師がどっと来て、一年の終りの手入れをして行ったので、すがすがしくなって、お正月が早々とやってきたようです。

 寂庵が出来た時、千坪でないと売らないといった土地を、ねばってようやく半分買いました。なぜここを買ったかと云うと、空いた土地が他になかったのと(いや、あったけれど、とても高くて手が出なかったんだ)まわりに家の建ってない空地が、他に見つからなかったのです。もう嵯峨はあきらめて、宇治にでも行こうかと思った時、ここが空いていると見つかったのです。「千坪」の造成地がぽかっと空いていて、前も奥も畠で、小屋一軒建ってません。大喜びで値をきくと、千坪全部でないと売らないといい、とてもそんなお金ないと悩んでいたら、相手も速く売りたかったのか、半分なら売ってやると言いだしました。たまたまそこへ銀行の人が来て、お金は貸すから全部買えと言いだしました。借りても返すめどがないので、いらないとねばったら、持主がついに、半分なら売ると言いだして、話が決りました。つまり五百坪買わされたのです。それでも買ったのは、方々見たあげく、この空地が、とても安かったのです。隣りにどこかの寺の墓地があるので、幽霊が出るのか、水が出ないのかと疑ってみましたが、只(ただ)、買手がないので段々値が下がったらしいのです。それでそこに庵(いおり)を建てました。堀文子さんが紹介してくれた東京の建築屋さんが建ててくれましたが、私が髪を剃(そ)って比叡山で行に入っている間に、建築屋さんが、六分通り建ててくれていました。瓦もふいたその六分建の建物を見たとたん、私はわっと泣きだしました。あんまり大きくて堂々として、目を廻しそうでした。建築屋は、泣きだした私を見て、

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