大竹:でも、すごくイヤな言い方かもしれませんが……。全部“過ぎて”いきます。だから「前」しかないというか。それで、できるのかもしれないですね。

五木:過ぎていく、か。いいね。織江もほんとに大人になったなあ(笑)。僕も前のことは忘れて、きょう一日で生きてます。

大竹:わーすてき!

五木:本を何冊出したかの記憶もぜんぜんないし、自分の本を保存してすらいない。どうしても必要になると、アマゾンで買ったりするんだよ(笑)。「汚れあり」とかいう自分の本を(笑)。

大竹:ほんとですか?

五木:正直、今、だけ。

大竹:賞のトロフィーがズラッと並んでいる書斎を想像してました。でも実際は……私と同じかもしれませんね。

五木:この世を去る前にぜひお会いしたかったなんていうと抹香くさくなるけど(笑)。四十数年ぶりにお互い元気で会えてうれしかったです。また一緒に仕事しようね。

大竹:もちろん! うれしいです。え、もう時間ですか? もっとお話ししたかったです。これからもおつきあいができますように!

(構成/福光恵)

週刊朝日  2020年1月3‐10日合併号より抜粋