「住み慣れた自宅で大往生」というのは70歳ぐらいで死ぬことを想定していたころの話で、80歳を超えて体が弱ると、階段の上り下りや庭の手入れ、ゴミ出しも困難になってきます。けれどもお金がないので、不便でもなんとか我慢してやっていくしかない。こうして、持ち家に閉じ込められる高齢者が増えているのだと思います。

 お金のある人は、持ち家は早々に売り払い、サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホームなどの「賃借」に移ることができます。お金を払って快適なサービスを受けるか、老朽化していく持ち家に住み続けるか。こうして定年後の上級老人/下級老人の分断が進んでいくのです。

──金融庁の報告書で引用されていたデータによれば、「共働きや副業で収入を増やす」と考えている人は、4人に1人しかいません。

 夫婦そろって年収1千万円クラスの世帯と、シングルインカムでかつかつでやっている世帯では、60代、70代になればとてつもない「経済格差」が生じるのは明白です。女性が仕事を続けるうえでの障害は家事・育児ですが、香港、シンガポール、インドなどのアジア諸国では、共働き家庭は住み込みのメイドを雇い、家事・育児を外注するのがあたりまえになっています。日本のように、妻が家のことをなにもかもやるべきだとは誰も思っていません。

 男性の場合、正社員として65歳まで勤めて定年退職すると、退職金を含めた生涯収入は約3億円で、女性の正社員だと2億円になります。それを捨ててしまうのはおかしいと考えて、『2億円と専業主婦』という本で問題提起しました。

 しかし、これは女性だけの問題ではありません。2億円損しているのは、専業主婦に家事・育児を丸投げしている夫も同じです。かつては、子どもが生まれると妻は専業主婦になるのが一般的でした。その結果、妻が稼ぐはずだった2億円のお金持ちチケットを手放すことになってしまったのですから、世帯をともにする夫にとっても大きな損失なのです。

次のページ