豊作だった今年の歴史・時代小説 ベスト3は日本の忖度文化、石田三成、芸道がテーマ

週刊朝日
2019年ベスト10 (週刊朝日2020年1月3-10日合併号より)
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2019年ベスト10 (週刊朝日20...

八本目の槍
今村 翔吾
978-4103527114
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熱源
川越 宗一
978-4163910413
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 2019年も傑作が数多く生まれた時代小説。文芸評論家の縄田一男さんに19年の3冊をあげてもらい、ノンフィクションライターで時代小説を愛読する長田渚左さんと対談していただきました。

【歴史・時代小説ベスト10はこちら】

* * *
長田:今回最初に伺いたいのは、時代小説と歴史小説の違いです。

縄田:時代小説は、時代の題材を借りて作者の自由な夢を展開したもの。歴史小説は、歴史上の人物や事件を史実にのっとって描くものです。海音寺潮五郎は、太平洋戦争の敗戦までが歴史小説で、敗戦後を扱ったものは現代小説だと言っている。

長田:それは縄田さんも異論はないですか?

縄田:日本人の歴史観は概ねそうだと思っています。伊東潤さんの『真実の航跡』もそうですが、歴史小説は、われわれが生きている現代と描かれている時代とが地続きであると思わせる方法で書かれています。

長田:そのとおりですね。今回縄田さんが選ばれた3冊は、どれも一筋縄ではいかないおもしろさがありました。最初は何から話しましょう?

縄田:一番ややこしいのは大島真寿美さんの『渦』だと思います。

長田:『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』までがタイトルなんですね。幕がぱっと開いたら江戸時代という感じで一気に引き込まれてしまいました。蜷川幸雄さん演出の、幕が開いた途端に全く違った世界になっていた舞台を思い出しました。

縄田:一種熱にうかされたような、良い意味での作者のものぐるいの産物のような作品です。ものぐるいの根底にあるのは、大阪弁の一人語りですね。作者の大島さんは愛知県出身なのに、よくこんなにちゃんとした大阪弁で全編を通しました。大阪弁の一人語り、浄瑠璃の台詞、道頓堀界隈の何ともいえない猥雑な雰囲気が三位一体となって物語を進めています。

長田:匂いが漂ってくるような小説です。女優さんの一人芝居にしてもいいと思いながら読みました。

縄田:久々の芸道ものの傑作ですよ。小説の舞台である江戸中期は、浄瑠璃が歌舞伎に取って代わられそうになった時期なんです。その歌舞伎の客をもう一回浄瑠璃に取り戻したのが近松半二の「妹背山婦女庭訓」でした。半二は、近松門左衛門に比べると本当に史料の少ない人です。よくこれだけのものを書いた。

 浄瑠璃の入門書で一番おもしろかったのは赤川次郎さんの『三毛猫ホームズの文楽夜噺』です。あれを読んだら浄瑠璃をみんな見に行くだろうという気がしますが、『渦』と一緒に読んでもらいたいと思います。

長田:虚というものが、ネットやSNSによって最近妙にリアルになっていますが、それとは別の怪しげな世界で、それが恋しくなります。

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