もうひとつ、冬になると見かけるのが「風邪引いた。声がミッツみたいになってる」というものです。仮にこの「ミッツ」が私だった場合、恐らく発信者は女性でしょう。風邪で喉をやられ「オカマ声」になったと言いたいのでしょう。特に変哲もない呟きかもしれませんが、これが案外多いのです。「薬飲んで熱は下がったけど、ミッツみたいな声しか出ない」とか「喉痛いけど学校行ったらミッツ声って言われた。マジ凹む」とか。これで分かるのは、「声」の高低差を通して、いかに世の女性が「オカマ」を下に見ているかということ。浸透したイメージによって出来上がった、至って邪気のない無意識なのかもしれませんが、潜在的に「オカマ=女性の成り損ない」と思われているのは明白です。まあ、間違ってはいませんが……。ただ、もし私のようなオカマが皆「出来ることなら女性のような高い声になりたい」と思っていると思われているのならば、それは声を大にして言いたい。私に限れば、歌の音域を広げたいとか、もっと通る発声をしたいと感じることはあっても、いわゆる「女性の声帯」が欲しいなんて微塵も思いません。そもそも私は女性の高い声が苦手です。

 世の女性は、自分が「男性化」することを「劣化」として捉え、その境界線上に「オカマ」を置きたがります。以前お店に勤めていた頃、「私もう女捨ててるから。周りにもオカマって呼ばれてるから。ママ(私)と同じだから安心して」と得意げに言ってくる女性のお客がよくいました。「安心してるのはそっちだろうが!」と思いながらも決して口には出さなかった。なぜなら、その手の女性は常連になる確率が低いから。そんな客相手に大事な商売道具である声帯を無駄遣いする必要はありません。

 ちなみに今も昔も「オカマ声」の頂点はユーミンであることをお忘れなく。金にもならない「女の風邪声」なんかといっしょにしないで頂きたいものです。オカマ声万歳! 皆様もくれぐれも喉風邪には気をつけて良いお年をお迎えください。

週刊朝日  2020年1月3‐10日合併号

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ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ

ミッツ・マングローブ/1975年、横浜市生まれ。慶應義塾大学卒業後、英国留学を経て2000年にドラァグクイーンとしてデビュー。現在「スポーツ酒場~語り亭~」「5時に夢中!」などのテレビ番組に出演中。音楽ユニット「星屑スキャット」としても活動する

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