林:「おしん横綱」と言われた親方ですよね。
荒磯:そうそう。いろいろと厳しい稽古をやらされましたけど、そのおかげですよね、ここまで来れたのは。
林:私、砂かぶりで見ながらいつも思うんですけど、土俵に上がる前に腕を組んでじっと目を閉じてるじゃないですか。あれがほんとに素敵なんですよ。絵のような美しさで。あのときは何を考えてるんですか。
荒磯:あそこでもう戦いが始まってると思うんですよね。昔はライバルの相撲を見ながら、「負けてくれればいいな」と思ってたんですけど、そうすると自分の精神がブレてくるんですよ。ですから僕の場合、横綱になる1年前からは相手の相撲を応援するようになりましたね。
林:ほ~お。
荒磯:「頑張れよ。俺と戦おうぜ」という気持ちに変わって、それからは精神的に非常にラクになって、いい状態で相撲がとれました。相手の失敗を祈るより相手の成功を祈ったほうが、自分もよくなっていくのかなと思いましたね。メンタルスポーツですから、気持ち一つで自分の相撲もガラッと変わりますね。
林:そういう強い精神をつくるために、何かしてらしたんですか。
荒磯:僕はすごい怖がりで、緊張しいで、すごい神経質なので、相手を殴り倒してでも、足を引っ張り倒してでも上に上がってやろうという気持ちになかなかなれなくて、この短所を長所に変えてやろうと思って、日本人の和の精神、「みんなで頑張ろうよ」という気持ちに変えてから、自分の相撲が非常に変わりましたね。
林:「和の精神」ですか。
荒磯:僕が初優勝したときに、本来なら「白鵬、負けろ」と思ったかもしれないですけど、「白鵬、頑張れよ」と思ってたんです。
林:ライバルに「頑張れ」って?
荒磯:ええ。白鵬関が負けてしまったから、「えっ、なんで負けたんだよ」という残念な部分もありましたが、そういう気持ちがあったから、次の日の千秋楽も精神が崩れずにいい相撲がとれました。西洋と日本のメンタリズムみたいなことを勉強したんですけど、やっぱり自分は日本人なので、和の精神を大事にしようと思って、そういう方向になりましたね。
>>【後編/元横綱・稀勢の里にお嫁さん候補!? 林真理子「すっごい美人で…」】へ続く
(構成/本誌・松岡かすみ)
※週刊朝日 2020年1月3‐10日合併号より抜粋