荒磯:(優勝に)あと1番、2番足りないということが毎場所続いて、優勝したらどんな気持ちになるんだろう、とんでもなく喜ぶのかなと思ってたんですけど、優勝した瞬間、「あ、そうなんだ。(白鵬関は)負けたんだ」と思って、あっけないというか、優勝するってこんな感じなんだと思いましたね。

林:実感がわいたのは優勝パレードのときですか。

荒磯:やっぱり天皇賜杯を抱いたときですね。もちろん重みもありましたけど、また違う重みを感じました。これを抱くために体も酷使してきましたから、あの瞬間に報われた感じがありましたね。

林:実は私、ときどき砂かぶりで見に行くんです。チケットをくれる人がいて。見てると、お相撲さんの汗がこっちまで飛んでくる感じで、こんなすごいスポーツないんじゃないかっていつも思うんです。防具もつけずに、肉体だけで勝負して。

荒磯:頭と頭がぶつかる音とか、筋肉が当たる音がしますしね。フルコンタクトのスポーツで15日間続けて戦うのって、ほかにはないと思うんです。15日間の中でいろいろ波があったりするんですけど、精神も肉体も一定に保たなくちゃいけないというのは、相当の難しさなんですね。絶妙な長さなんですよ、15日間というのが。

林:しかも年6場所ですもんね。そして毎日稽古があるし。私、朝稽古を見せていただいたことがありますけど、皆さん手を抜かないで本気でやるじゃないですか。どれだけ肉体を酷使してるんだろうと思いますよ。

荒磯:それだけやらないとダメなんですね。稽古の大切さは、恐怖に打ち勝つという部分もあるんです。僕の師匠の先々代の鳴戸親方(元横綱隆の里)に「相撲のケガは稽古場で治せ」ってよく言われたんです。最初はどういう意味かわからなかったんですけど、ケガをして休んでしまうと、なかなか恐怖に打ち勝てないんですね。血が出てもまたやってみるということを稽古場でやると、恐怖心がなくなるんですよ。強い体をつくってケガを稽古場で治す。それが本場所にもつながってくる。鳴戸親方が言ったのはそういうことだったのかなと、今になってわかってきましたね。

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