荒磯:僕は新横綱でケガをしたので、そういうことになる前に引退したんです。派手に飲まずに、コソコソッと静かに飲んでましたね。横綱の2年間はなかなか外に出づらい状態でしたし、休場もしてましたから、外に出るのは悪いことかなと思って、堂々と街に繰り出してワーッていうのは、やりづらかったですよ。

林:ああ、そういうことも考えてらしたんですね。親方は入門したときから手足が長くて、腰の位置は高いんだけど、体がすごく柔らかくて、「大器」と言われてたそうですね。「この子はほかの連中とちょっと違う」って。

荒磯:手足はほんとに長くて、腰の高さが欠点だと言われたことがあるんです。自分でもそうかなと思ってたんですけど、手足の長さを長所に変えていこうと思いまして、相手に合わすんじゃなくて、自分のふところに持ってきちゃえばいいじゃん、と思ったんですね。そのときに一皮むけた感じがしました。足の長さが僕の中ではずっと悩みだったんですけど、最後は足が長くてよかったなと思いましたね。

林:入門されてから新十両、新入幕までのスピードは、貴乃花さんに次いで歴代2位なんでしょう?

荒磯:昇進したスピードは速かったですね。そこからが長かったですけどね(笑)。
林 でも、その間に人気と実力をぐんぐん蓄えていって、決して無駄な時間ではなかったんじゃないですか。

荒磯:毎場所毎場所、考えさせられるような相撲が続いて、低迷していた時期がありますけど、「一つ上に」という目標を持ってましたからね。大関を5年間やってましたけど、一日も折れたことはなかったです。常に上を目指してやり続けて、新しいことをやって試して、折れて、また新しいことをやって……ということの繰り返しでしたね。

林:自伝(『我が相撲道に一片の悔いなし』)を読ませていただいたら、初優勝のとき(17年1月場所)、千秋楽に横綱の白鵬さんと戦って優勝を決めるつもりだったのに、14日目に白鵬さんが負けて自分が優勝したことを知って、「こんなにあっけなくていいんだろうか」と思ったと書いてありますけど、これがホンネなんだろうなと思いました。

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