周防正行監督(63)の5年ぶりの新作映画のタイトルは、「カツベン!」。映画が音声なしで上映されていた頃に活躍していた「カツベン=活動弁士」(ストーリーや台詞を映画に合わせてしゃべる人)たちのお話だ。監督と、主人公に大抜擢された俳優の成田凌さん(26)に語り合ってもらった。
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周防:よく聞かれるんですよ、なんで成田さんを主役に選んだんですか?って。でもね、その時点で僕が思い浮かべるヒーローのイメージに近かったとしか言いようがないんです。
成田:そのわりに現場でも「あ、いたの?」なんて言われたり(笑)。監督はすごく素直な方だと思います。「選んだ人の今後の役者人生なんて興味ない」とおっしゃってましたね(笑)。でもそれって実は本質で、「この作品に合う芝居をしてほしいんだ」と言われたとき、すごく気持ちいいことだと思って。
周防:お客さんの多くは、この映画で初めて活動弁士の語りを聴くことになると思うんです。弁士役がある程度のレベルに達してもらわないと、映画自体がスカスカなものになってしまう。それで、とにかくうまくなってほしいと。
成田:現役の活動弁士の坂本頼光先生にご指導いただいたんですけど、頼光さんが本気の活弁を毎回実演してくださって、そのなかから僕が見つけていく、つかんでいく、という作業の日々で。でも、練習の間、ずーっと不穏な空気が流れてるんです。僕ができなさすぎて(笑)。頼光さんから「もっと濃くして、濃くして」って言われても、節というかリズムというか、伝統的な語り芸の、あの独特の話し方だと頭ではわかっても、なかなかできなかった。
周防:最初できないのは当然なので、どんなふうに頼光さんがつくっていってくれるのかなあと思いながら見てましたけど。
成田:とにかく反復でしかなくて。頼光さんから、この人のここをまねしなさいと言われたのが、講談師の神田松之丞さんの決めの部分の表現でした。ぽんと突き抜ける部分みたいなこと。毎日、落語や講談を聴いたり、実際に見に行ったり、昔の文化に触れる、聴く、見る、みたいなことで少しずつ成長していけたのかなと思います。