――この事件がとても重要なのは、性暴力として重大な問題であると同時に、そこに総理官邸とかの影響力が絡んで刑事の立件が妨害された可能性があるからです。今回の民事訴訟で、この点について追及されなかったのでしょうか。

(村田弁護士)
 弁護士としてできることを裁判ではやったつもりです。山口さんが不法行為をして伊藤さんが傷ついたことについての損害賠償請求は、しっかりやったんですね。なぜ逮捕状が執行されなかったのかということを理由に、国を訴えることはすごく難しいんですよ。そもそも当事者適格、訴えの利益がないと判断されてしまう。別の枠組みで争うのも難しい。

(伊藤さん)
 最後に申し上げたいんですけど、新しい証人が出てきてくれました。その方は、ホテルのドアマンでした。残念ながら民事裁判の手続きもあってその証言は間に合いませんでしたが、今後は使いたいと思います。その方は私たちの姿を一番最後に見ていました。仕事の関係もありいろいろなリスクもあるなか、話してくれました。

性被害について声を上げる)「#MeToo」の動きが日本では広まらないと、海外のメディアから言われています。声を上げている方はたくさんいる。受け皿になるところが少ないだけだと私は思っています。なので、今こうやって皆さんが聞いていることがすごく重要だと思いますし、だからこそ私たちは「#WeToo」を始めました。誰もが、加害者、被害者、傍観者にならないためです。傍観者という部分で、これまで証言してくださった方が本当に大きな役割を果たしてくれました。

 性犯罪は閉じられた場所で行われるものです。その前後を見た人たちは本当に重要な人なんです。その声がもっともっと出てきて、守られるような動きになったら、こういった難しいケースでも解決につながるのではないかなと思います。本日は皆さん、ありがとうございました。

 このように伊藤さんは、最後は声を震わせながら訴えた。今後は東京高裁で双方の主張が争われる。性被害者の口封じはさせないという伊藤さんの思いは、どのような結末を迎えるのだろうか。
(本誌・緒方麦、池田正史、多田敏男)

※週刊朝日オンライン限定記事

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池田正史

池田正史

主に身のまわりのお金の問題について取材しています。普段暮らしていてつい見過ごしがちな問題を見つけられるように勉強中です。その地方特有の経済や産業にも関心があります。1975年、茨城県生まれ。慶応大学卒。信託銀行退職後、環境や途上国支援の業界紙、週刊エコノミスト編集部、月刊ニュースがわかる編集室、週刊朝日編集部などを経て現職。

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