尾上:女形といえば、(坂東)玉三郎さんが私にご指導くださっている「二人道成寺」もご覧くださいましたよね。

吉田:ええ、拝見して書かせてもらってます。

――「二人道成寺」は喜久雄とライバル俊介がスターになる契機になった演目で、後に10年のブランクから復帰した俊介が立女形の万菊と演じるなど『国宝』の要所で描かれた。

尾上:玉三郎さんと踊らせていただいた最初の「二人道成寺」の時は、手も足も出ませんでした。そんな私に、「自由に踊っていいわよ」と仰り、いちから育ててくださいました。踊りだけでなく衣裳の着付けに至るまで「道成寺」をたたき込んでくださいました。その当時の自分の姿を客観的に見ている感じになり大変面白かったです。

吉田:玉三郎さんはやはり憧れであり、いつかは、という感じですか。

尾上:今でも女形を演じる時にはお話を伺いに行きます。

吉田:これも好奇心からなんですが、立役と女形のどちらが面白いですか。

尾上:最近は立役の魅力を感じていますが、どちらというよりも家の芸を受け継ぎながら、様々な役を経験したいと思っています。

『国宝』の話に戻るんですけど(喜久雄を「弁慶」のように支え続けた)徳次が好きです(笑)。

吉田:おいしい感じで出てきますよね。徳次のことを書いていると気分がよかったです(笑)。彼の自由な感じがお好きなんですか。

尾上:そうですね。喜久雄にちゃんと意見を言えるところも。命を賭して喜久雄の娘を助けに行くところも泣けますよね。

――物語の終盤、徳次は歌舞伎役者花井半二郎(喜久雄)をこう語る。<その役者の芝居見るとな、正月迎えたような気分になんねん。気持ちがキリッとしてな。これからなんかええこと起こりそうな、そんな気分にさせてくれんねん>

吉田:お正月ってなんかいいことあるかなと想像するじゃないですか。そんなふうに歌舞伎の舞台を見ると、まっさらな気持ちになるというか。特に歌舞伎座は行くといつもそんな気分になるんですよ。

 それに黒衣取材では、本当に良くしてくれたんですよね。邪魔にされずに本当に。何してるかわからなかったと思うんですけど、それでも受け入れてくださった。内側の人たちがすごく歌舞伎を大切にしてるっていう感じが、徳次のああいうキャラクター造形につながったのかもしれません。歌舞伎のスタッフの方々って本当に歌舞伎好きなんだろうなって思います。

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