宝塚は世界でも類のない女性ばかりの演劇集団です。男役は現実の男性も足元に寄れないほど格好良く、この地上のどこを探しても見当たらない美の結晶とも言うべき美の化身で、特に男役は両性具有として芸術の美神なのです。だから僕が彼らに惹(ひ)かれない訳はないでしょう。

 芸術の創造は、男性原理と女性原理の結合によって作品が誕生するのです。女性が受信したインスピレーションを男性に与えることによって創造が成立するのです。そんな感動を宝塚歌劇は感性によって観る者に伝えてくれるのです。そこに僕は共鳴、共感、まいっちゃったんです。

 そして、生まれ変(かわ)って来世こそはタカラジェンヌの男役トップスターになろうと思ったんです。このことはこの間の手紙に書きましたよね。僕が宝塚に惹かれた理由は以上ですが、セトウチさんが宝塚に憧れてタカラジェンヌになろうとされた動機は一体何だったのですか。ぜひ、セトウチさんの宝塚のお話をお聞きしたいものです。男役ですか、娘役ですか、どっちに憧れておられたんですか。もしなっておられたら、97歳の元タカラジェンヌのおばあちゃんとお友達で別の歓(よろこ)びがあったかも。

♪すみれの花咲く頃 はじめて君を知りぬ

■瀬戸内寂聴「初めてタカラヅカ観たのは1935年かな」

 ヨコオさんがタカラヅカを初めて観たのは、1998年ですって?

 私が初めてタカラヅカを観たのは、12歳の時だから、今から85年前、1935年じゃなかったかな、私はアタマのいい優等生といわれて育ったけれど、実は算術が一番きらいで、今でもお金の計算が全くダメなのです。だからこの年の数も合ってないかもしれない。

 いずれにしろ、私の計算によれば、私がヨコオさんより63年も前に、タカラヅカを観たというわけです。

 忘れもしない、その頃、スターのトップは男役の葦原邦子で、女役のトップは小夜福子でした。小夜福子は男役もかねましたが、どちらの役も美しさと可憐さがあり、後に女優になって、これは女役でスターになりました。葦原は、顔は美人ではないけれど、男役になって舞台に立つと、セクシーな男の魅力が出て、女客はキャーッとなっていたようです。

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