障害者や難病患者のリスクとは、冒頭の岡山さんのように重度障害者でも自立して生きていこうとするとき、社会の理解不足や障害者支援の遅れなどから生まれる「生きていても不幸」という無意識の差別的偏見であり、生きることへの無言の圧力につながりやすいことを意味する。

 さらに、この番組では「患者と社会とのつながり」が出てこなかった。特に、がんや神経難病の患者には医療者による「緩和ケア」が生きる支えになる。

NHKの番組で取りあげられた女性のような神経難病に対する緩和ケアはまだ普及していません。そのようなときに、安楽死を合法化する流れができることは危ないです」と川崎市立井田病院緩和ケア内科医長の西智弘医師は指摘する。

 JCILからBPOへの調査・審議の依頼は放送倫理検証委員会などで審議するかどうか、検討される。(医療ジャーナリスト・福原麻希)

■6月2日放送の「NHKスペシャル彼女は安楽死を選んだ」の内容

 昨年、スイスで日本人女性(当時51)が安楽死<表の(2)参照>をした経緯とその死を遂げる瞬間を放送した。女性は亡くなる3年前、進行性の神経難病「多系統萎縮症」と診断され、会話や食事を含めた日常生活全般の動作が不自由だった。激しい痛みは薬物治療で抑えていた。医師から、やがて人工呼吸器や胃ろうが必要になり、寝たきりになると言われた。女性は「私が私であるうちに、安楽死をほどこしてください」とスイスの自殺幇助団体に登録し、海を渡って実行した。日本で安楽死は認められていない。

 NHKは番組のナレーションで「海外で安楽死を選ぶ人が増える中で、本人や家族が何を考え、どんな現実と向き合うことになるか」「私たちは命の終わりをどう迎えるか。大切な人をどう見送るかを考える」と伝えた。女性はスイスでの行動に密着した取材班に「みんなで安楽死を考えることは、私の願いでもある」と話した。

■日本での「安楽死」の分類

生命倫理学の分類/国内での呼称:安楽死
(1)積極的安楽死
医師が致死薬を患者に投与することで死に至る。嘱託殺人とも言われる。
(2)医師の幇助による自殺
患者の依頼で医師が致死薬を処方する。患者のタイミングで体内に入れることで死に至る。

生命倫理学の分類/国内での呼称:尊厳死
(3)消極的安楽死(延命治療の差し控えと中止)
患者の希望によって人工呼吸器・人工透析等を導入しない、および、継続の中止。こちらも(1)(2)と同様に国内での法整備はされていないが、現在、学会のガイドラインのもと、要件を絞ったうえで医療現場では実施されている。

参考:『安楽死・尊厳死を語る前に知っておきたいこと』(安藤泰至著)

週刊朝日  2019年12月27日号