河合:これは大変な作業です。私は身長が175センチもあるので、高島田をかぶって下駄をはいたら180センチ超えになってしまうんです。舞台に異物が出てきたと思われると、お客さまが作品に集中できない。「だったら女優さんがやればいいじゃない」ではなくて、「やっぱりここは女方さんがやったほうがいいわよね」と言っていただける存在でなければいけないので、そこが新派の女方としてはいちばん重要なところだと思いますね。

林:なるほどね。

河合:衣裳も、新派は歌舞伎と違ってあんまり大きな衣裳で着飾ることがないんです。比較的ふだんの女性の着物を着ることが多いので、どんな柄の衣裳でどんな帯にすると悪目立ちしないかとか、そんなことを考えて衣裳を選びますね。

林:雪之丞さんは女性から「どうしたらそんなに女らしい雰囲気が出せるんですか」と聞かれると、「私が舞台でやってることをまねしてもダメです」とお答えになるそうですね。

河合:はい。私たちがやってるのは女方術というか、技術で女方をやっているので、それをそっくりそのまま現代の女性が着物を着てやったら滑稽なものになります。それはやらないほうがいい。ただ、女方が舞台で見せる気づかいとかは、ご参考にしていただいてもいいかなと思います。お着物は若い方にどんどん着ていただきたいと思うんですよね。「着物は“女らしさ養成ギプス”だから」と言ってるんです。

林:なるほど。踊りを習うのもいいですよね。

河合:もちろんいいと思います。着物を着たときのきれいな体の動きとかが身につきますしね。「着物を着てできないしぐさは、洋服のときもしないほうがいいです」と言ってるんです。たとえば、着物を着てお太鼓締めていれば、いすの背もたれに寄りかかれませんよね。だから洋服のときも背もたれから少し空けて座るとか、着物のときは脚を広げないで閉じますね。だから洋服のときも脚を広げないとか、着物を着たときのしぐさを心がけると、素敵な女性に一歩近づけるんじゃないかというお話をさせていただいてます。

>>後編【早熟の女形・河合雪之丞「3歳で劇場中継番組を見始め、5歳で歌舞伎座に」】へ続く

(構成/本誌・松岡かすみ)

週刊朝日  2019年12月20日号より抜粋