河合:湯島境内でのお蔦のセリフですね。

林:「金色夜叉」も、「今月今夜のこの月を」というセリフは日本人なら誰もが知ってますが、どんなストーリーでどうなっていくのかを知ってる人、あんまりいないと思う。日本人なら一度はきちんと新派を見なきゃいけないと思いますよ。

河合:私も新派の芝居を勉強してから、日本語の美しさが心に染み渡るなと思うようになりました。たとえば「雨が降ってきたから傘をさしなさい」というのを、(しっとりとした口調で)「降ってまいりましたわ、雨が。おさしなさいまし、傘を」と言うんですね。それが新派のセリフの妙ですよ。身に染みる言葉の美しさ。

林:ほぉー。私、反省しました。「言い方がキツい」っていつも夫に言われるんです(笑)。

河合:歌舞伎の場合は「知らざあ言って聞かせやしょう。浜の真砂と五右衛門が」とか、セリフを音楽的に言うのでリズム的に気持ちがいいんですが、新派の場合は言葉が心に入ってくる感じがするんですよね。

林:私、これが新派だなと思ったんですけど、新派で最年長の方……。

河合:柳田(豊)さん。

林:あの方が昔の江戸の言葉をしゃべっていて、私、感動しました。昔の人はこんなふうにしゃべっていたのかと思って。

河合:そうなんです。歌舞伎は昔の言葉を使うんですけど、それを歌い上げるので、音楽として耳に入ってくる感じなんですね。新派の場合はリアルな言葉づかいの中に当時の江戸の言葉づかいが入ってくるので、日本語の美しさみたいなものがリアルにお客さまに伝わるお芝居だと思うんです。

林:ただ、雪之丞さんは女性よりも大柄だから、リアルなお芝居の中での違和感があると思うんです。それを見てる方になじませるのが大変じゃないですか。

河合:そこがいちばん問題なんですね。歌舞伎と新派のいちばん大きな違いは、歌舞伎は全員男性ですが、新派は女優さんと女方が共存しているということなんですね。

林:すごく難しいですよね。

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