安田峰俊(やすだ・みねとし)/1982年、滋賀県生まれ。ルポライター。天安門事件に取材した『八九六四』(2018年)で城山三郎賞と大宅壮一ノンフィクション賞をダブル受賞。『移民 棄民 遺民』『性と欲望の中国』など著書多数。 (撮影/写真部・片山菜緒子)
安田峰俊(やすだ・みねとし)/1982年、滋賀県生まれ。ルポライター。天安門事件に取材した『八九六四』(2018年)で城山三郎賞と大宅壮一ノンフィクション賞をダブル受賞。『移民 棄民 遺民』『性と欲望の中国』など著書多数。 (撮影/写真部・片山菜緒子)

 2010年に『中国人の本音』でデビュー以来、中国の性産業に着目した『性と欲望の中国』など、さまざまな角度から中国を題材としたルポルタージュを発表してきた安田峰俊さん。

『もっとさいはての中国』は昨年出版された『さいはての中国』の続編で、ケニアやカナダ、タイなどの国に広がる「中華システム」を探究する。本シリーズの白眉は、「中国×ルワンダ」など、意外にも思える国の組み合わせや、そこから見える中国とその国の関係性の面白さにある。

 他国を取り上げる理由について、安田さんは「中国以外の国にも浮気しがちだから」と笑うが、もちろん、こうした構成はただのミーハー心から生まれたものではない。

「大学院で歴史学を学んだんですけど、そこでは比較の視点の大切さを教わりました。ある事象についてすごいとか良くないとか言っても、比較対象がないとなかなか伝わらない。ですから、比較は本の中で意識して行うようにしています」

 比較の視点は、日本人にとってなじみの薄い国を取り上げる時にも役立っている。たとえばルワンダの場合、映画「ホテル・ルワンダ」のイメージくらいしかない人が多いだろう。

「でも、中国なら多くの人になじみがありますよね。中国とその国、また日本との比較もできます。中国をきっかけにして、読者にさまざまな国に興味を持ってほしいという思いがあります」

 中国語が堪能で、中国以外の国で取材する際、日本語の通訳ではなく、中国語の通訳をつけることを意識しているという。

「先日、次の本の取材でベトナムを訪れた際も、中国語の通訳を雇いました。各国にいる中国語の人材は、その国と中国との関係をよく知っているので、いろいろ聞いてみると、日本では得られない視点が見えてきます」

 知名度の有無を問わず、さまざまな人に取材を続ける。アメリカに亡命し、中国共産党政権のスキャンダルの暴露を続けている郭文貴など、一筋縄ではいかない大物とも臆せずに接触し、確かな関係性を築いている。その過程で出てくる相手の素(に思える部分)の面白さは、読んでいて痛快ですらある。

「取材の際は、相手が何を望んでいるかを考えます。天安門事件を取材した『八九六四』の時は、デモのリーダーの人に話を聞いたんですけど、ちょっと退屈そうにしていたので、雑談のようなリラックスした形に切り替えたら、よりオープンに話をしてくれました。アプローチは固定せず、人によってさまざまですね」

 安田さんのこうした姿勢によって、取材対象者たちの飾らない肉声が伝わってくることも、本書の魅力の一つだ。

「思想や技術など、中国を大きな視点から探る本ももちろん面白いですけど、肌感覚で中国を知りたいという方には、ぜひこの本を手に取っていただければと思います」

(若林良)

週刊朝日  2019年12月20日号