蛾次郎さんの演技キャリアは小学3年生からだ。児童劇団で子役として活躍していた。

「親父と姉が勝手に応募したら受かっちゃった。それが芝居をするきっかけ。まあ、演技は楽しかったね。親父は歯医者だったから本当は『歯医者になれ』って言われたんだけど断った。勉強は嫌いだったから」

 そして23歳で山田監督に見いだされ、映画「吹けば飛ぶよな男だが」に出演する。監督の真剣さを目の当たりにし、懸命に演技で応えた。監督の信頼を得てテレビドラマ「男はつらいよ」に出演が決まり、渥美さんとのコンビが始まった。

 ドラマでは寅さんの弟役で「兄貴、兄貴」とそのあとをついて回った。映画でもその関係は変わらず、寺男・源公として毎回、柴又に帰ってくる寅さんを出迎えた。トレードマークのもじゃもじゃ頭は、地毛だ。

「天然パーマなんですよ。面倒くさくて刈らなかったら、伸びてきて、ああなっちゃった」

 映画の外でも渥美さんとの交流は深かった。普段着の渥美さんはサファリルックに帽子姿。街で会っても、すぐにはわからない。そのくらい「普通」を好んでいた。二人で「男はつらいよ」を見に行ったこともある。

「新宿あたりの映画館では俺や渥美さんが出ると『寅さん!』『源ちゃん!』って客席から声がかかってね。嬉しかったね。渥美さんもニコッとしてましたよ」

 渥美さんと海外旅行をしたことも忘れられない。

「突然『蛾次郎、タヒチ行こう』って言いだしたんです。俺とお前とチーちゃん(倍賞千恵子さん)と監督とで、俺、全部出すからって。楽しかったなあ。向こうでホテルのプールサイドに集まったら、倍賞さんがワンピースの水着を着てきた。俺がさ『違う違う、倍賞さん』『なにが?』『ここは東京じゃないのタヒチだよ。ここはビキニでしょ!』って言ったら倍賞さん『え~!?』って言いながら、ビキニに着替えてくれた。そりゃあ、綺麗でしたよ」

 渥美さんから演技について言われたことはない。

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