それでも、佐久本氏は、

「完成度で言えば、まだ足りないところがある」

 と指摘する。技には、力強さだけでなく、柔らかさ、力を抜くことによって出てくる効力も大いにあるからだ。

「もう少し、技の奥深さを表現できればよいのかな。気持ちがわずかに先にいっているのかな、と思います。懸待一致というんですかね、技と心を一つにかみ合わせながらやれば、もっと味わい深い空手になると思いますね。まだ彼は進化して伸びていくだろうと思います。謙虚ですしね。十分に伸びていくと思います。まだ今は80点ぐらいじゃないですか。あんなもんじゃないですよ。楽しみにしています」

 空手界にとって、五輪はまさに悲願だった。全日本空手道連盟は64年の東京五輪を機に、将来の五輪採用を目指してそれまで個別に活動していた流派がまとまる形で誕生した。現在の世界空手連盟には約200カ国・地域が加盟しているが、過去3度、候補競技として挙がりながら涙をのんできた。今回、ようやく20年東京大会の追加競技として五輪初登場が決まった。世界の空手家にとって待ちに待った好機だ。

 さらに、「空手発祥の地」としてのプライドを持つ日本、特に沖縄出身者には、それこそ特段の意味が加わる。空手は琉球王国時代の沖縄で誕生し、日本本土から世界に広まった。

 沖縄で生まれて、今も沖縄で練習を続ける喜友名が言う。

「僕たちは普段の生活、練習から沖縄の風土を感じている。全てが本物だ。自分たちが空手というスポーツの本家だという強い気持ちがある。それを五輪という最高の舞台で示したい」

 来夏の東京五輪は、喜友名にとって空手家として、出身の沖縄在住者として、自らのアイデンティティーの証明の場でもある。(朝日新聞社スポーツ部・竹園隆浩)

週刊朝日  2019年12月20日号