病期は従来、痛みを引き起こす物質のβ(ベータ)2ミクログロブリンとアルブミンが、血液中にどのくらいあるかで判定されていたが、15年に国際的な診断基準が変更された。いくつかの染色体異常があることも、病気を決定する要素に加えられた。

「染色体の17番、14番、4番など特定の遺伝子が欠けていたり異常があったりすれば、悪化しやすいタイプと考えられます。そういう方には、通院の頻度が多くてもより効果の高い注射薬を使うよう提案します。それ以外の患者さんであれば、既存の抗がん剤にサリドマイドを加えた治療も検討します」(大橋医師)

 いずれの治療法でも、最も大切なことは、いかに骨髄腫細胞の数を減らすかだ。一時は病状が改善しても、骨髄腫細胞が残っていては再発の可能性が高い。最近開発された「微小残存病変(MRD)検出法」は、患者の正常な形質細胞と骨髄腫細胞とを画像処理で見分けるものだ。100万個の形質細胞をチェックすると、微量の骨髄腫細胞の数を正確に把握できる。

「薬を使った後、MRD検出法で定期的に調べることにより、効果を評価しながら的確な治療が進められるようになります」(鈴木医師)

 多発性骨髄腫の治療は“延命”から“完治”への希望が持てるものになった。ただ、現時点で染色体検査やMRD検出法が受けられるのは先進的な治療をおこなう大病院に限られた側面があり、加えてほかにも課題がある。

「多くの薬のベストな組み合わせ方はまだ確立していませんし、高齢の患者さんに安全な用法もデータが足りていません。薬物療法が確立されるまでには、もうしばらく時間が必要です」(大橋医師)

 また、医療費についての懸念もある。たとえばポマリドミドの場合、1カプセルが6万円と高額だ。

「保険制度上、すべての患者さんに集中砲火型の治療をすることは認められなくなる可能性があります。治療技術は進みましたが、医療経済とどう折り合いをつけていくかも、これからの課題です」(同)

(文・中保裕子)

※『週刊朝日MOOK 新「名医」の最新治療 2017』から抜粋

【取材協力(肩書は取材時)】
日本赤十字社医療センター
骨髄腫アミロイドーシスセンター長
鈴木憲史医師

都立駒込病院
血液内科部長
大橋一輝医師