16年は、ボルテゾミブの効果を強めた分子標的薬、カルフィルゾミブが発売された。さらに17年にはボルテゾミブの飲み薬版となるイキサゾミブも登場する予定だ。その後も、現在臨床試験中の新しい分子標的薬や、抗体医療と呼ばれる薬など続々と発売されるとみられる。

 ところで、65歳以下の患者の標準的な治療は、薬物療法の後に造血幹細胞移植をするという流れだ。65歳という年齢は必ずしも厳密なものではなく、患者の体力や体調によって上下する。

 移植といってもさまざまな種類があるが、現在、多発性骨髄腫の治療でおこなわれるのは主に自家末梢血管細胞移植(自家移植)だ。大量の抗がん剤で自分の骨髄ごとがんをたたき、その後、あらかじめとっておいた自分の骨髄細胞を移植して骨髄の復活を助ける治療である。

 大橋医師は言う。

「自家移植は比較的安全な治療法です。当院では、多発性骨髄腫の患者さんを対象に年間約10件の自家移植をおこなっていますが、治療中の死亡は一例もありません」

■国際的な基準変更で病気の診断も変化

 だが、薬物治療の発達によって、造血幹細胞移植の位置づけが変わりつつある。米仏共同の研究によると、がんが安定した状態を示す「無増悪生存期間」は、薬物療法のみよりも、それに加えて移植を受けた人たちのほうが長かったが、生存期間にはほぼ差がないという結果も出ている。

 鈴木医師は「移植は2次的な治療になった」と言う。

「自家移植は4週間ほどの入院が必要な上、脱毛など生活上の影響も大きい治療です。一度採取した造血幹細胞は5~10年間の保存がきくので、当院では薬物療法を主体とし、病気が進行したら移植を検討します」(鈴木医師)

 埼玉県在住の桑野五郎さん(仮名・63歳・会社役員)は、腰痛がひどくなり近くのクリニックを受診。血液検査で異常が見られたため、都立駒込病院を紹介された。骨髄穿刺で骨髄を採取し染色体を調べると、桑野さんには17番の遺伝子に異常があった。大橋医師は、最も進行した病期IIIで、より悪化しやすいタイプと診断。ボルテゾミブと、ステロイド薬デキサメタゾンを併用する治療を提案した。

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